※ 記事制作時の情報です。
テキストマイニングとは、大量のテキストデータから、有用な情報を抽出する技術のことです。
私たちの周りには、アンケートの自由記述やSNSの口コミ、日報、問い合わせメールなど、言葉で記録されたテキストデータが溢れています。これらは、人々の本音や隠れたニーズが詰まった貴重な情報源ですが、一つひとつを人の目で確認して分析するのは非常に困難です。
テキストマイニングは、こうした膨大な文章データを人工知能 (AI) 技術、特に自然言語処理 (NLP) や機械学習アルゴリズムによって分析します。特定の単語の出現回数やどのような言葉と一緒に使われているか、意見がポジティブかネガティブかなど、言葉の背景にある文脈や関係性まで分析できます。例えば、多数の口コミから自社製品の評判を客観的に把握することが可能です。
このように、テキストマイニングは言葉を可視化し、課題の発見やアイデア創出につなげる分析手法です。
テキストマイニングが注目されている背景には、大きく二つの理由があります。
一つ目は、分析の対象となるテキストデータが増加したことです。SNSの投稿やECサイトのレビュー、コールセンターに寄せられる声などは、企業の意思決定において非常に貴重な情報源です。しかし、データ量が膨大なため、これまでは十分に活用できていませんでした。
二つ目は、AI技術、特に文章を理解する「自然言語処理」の発展です。これにより、単に言葉の出現頻度を数えるだけでなく、文章の文脈や感情のニュアンスをより深く読み取ることができるようになりました。
この二つの変化が重なったことで、顧客の隠れた本音を的確に捉える手法として、テキストマイニングの重要性が急速に高まっています。
テキストマイニング | データマイニング | |
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主な目的 | テキストデータから、有益な情報 (傾向、関連性、評判など) を発見する。 | あらゆるデータ群から、未知のパターン、ルール、知識、相関関係を発見する。 |
分析対象 | 非構造化データ (自然言語で書かれた文章) が中心。 ・アンケートの自由記述 ・SNSの投稿、口コミ ・コールセンターの応対履歴・日報、報告書、論文など |
構造化データ (数値化されたデータ) が中心。 ・売上データ (POSデータ) ・顧客属性データ (年齢、性別、地域など) ・Webサイトのアクセスログ ・センサーデータなど |
データの種類 | 定性データ (言葉の意味、感情、文脈など) | 定量データ (数値、カテゴリ、IDなど) |
前処理 | 形態素解析 (文章を構成する最小単位である単語や文節に分割) 、構文解析など、自然言語処理技術を用いて文章をコンピューターが扱える形式に変換する。 | 名寄せ、欠損値の補完、正規化など、統計的に処理しやすいようにデータをクレンジング・整形する。 |
関係性 | データマイニングという大きな枠組みの中で、テキストデータに特化した手法。 | テキストマイニングを含む、さまざまなデータから知見を得るための広範な概念・手法の体系。 |
テキストマイニングには、感情を読み取るセンチメント分析、関連性を可視化する対応分析や主成分分析、複数の単語の結び付きを探る共起分析など、多様な手法があります。
センチメント分析は、文章に込められた感情を分析する手法で、「ポジネガ分析」とも呼ばれます。SNSの口コミや商品レビューといったテキストデータが、「肯定的 (ポジティブ)」「否定的 (ネガティブ)」「中立 (ニュートラル)」のどれに分類されるかを自動で判定します。
この手法のメリットは、自社製品やサービスに対する世間の評判を、大規模かつ直感的に把握できる点です。例えば、顧客満足度の変化を時系列で追跡したり、SNSでの炎上を早期に検知したりする際に役立ちます。一方で、日本語特有の皮肉や、「ヤバい」のように文脈によって意味が変わる言葉の感情判定は難しいというデメリットもあります。
対応分析は、アンケート結果などの項目間の関連性を一枚のマップ (散布図) で視覚的に表現する手法です。
「コレスポンデンス分析」とも呼ばれます。マップ上の点と点の距離が近いほど、それらの項目の関連性が高いことを示します。
メリットは、複雑なクロス集計表の数値を見るよりも、直感的にデータ全体の構造を理解できることです。例えば、「20代女性」という回答者層がどの商品デザインを高く評価しているか、といった関係性を一目で把握できます。ただし、マップの軸が何を意味するのか解釈が難しいケースがあることや、あくまで項目間の関連性を示すだけで因果関係を証明するものではない点には注意が必要です。
主成分分析は、多数の項目を少数の要素にまとめることで、データの特徴をよりわかりやすく示す手法です。例えば、アンケートで価格や品質、サポート体制といった複数の顧客満足度に関する項目を集め、それらを統合して「コストパフォーマンス」や「製品への信頼性」といった大きな概念の方向性を導き出せます。複雑なデータを整理し、その背後にある本質的な構造を見つけやすくなるのが大きな利点です。ただし、抽出された主成分が具体的にどのような意味を持つのかを解釈するのは難しい場合もあり、分析者の判断が求められます。
共起分析は、同じ文脈で同時に出現する単語のパターンを調べる手法です。「美容」と「健康」のように、頻繁に一緒に現れる単語ペアを特定し、その関連の強さを測定します。結果はネットワーク図で視覚化され、単語間のつながりが線で表現されます。マーケティングでは、消費者が商品に対して持つイメージの関連性を探ったり、新たな切り口を発見したりするのに役立ちます。メリットは直感的に理解しやすく、予想外の関連性を発見できる点です。しかし、因果関係ではなく相関関係しか示せないため、分析の限界があります。また、文脈を考慮できないことや、データに偏りが生じると、分析の精度が低下する可能性があるというデメリットがあります。
テキストマイニングの大きなメリットは、膨大に生み出される文章データから有益な情報を効率的に抽出できることです。アンケートの自由記述やSNSの投稿、問い合わせ内容といった顧客の声を分析することで、数字だけでは見えにくい本音や感情、改善要望を把握できます。例えば「この機能が使いにくい」といった小さな不満や「このような商品がほしい」といった期待は、商品開発やサービス改善の貴重な手がかりになります。また、SNSで不満が広がる前に兆候を察知し、迅速に対応策を講じることも可能です。
こうして得られたデータを経営やマーケティングの判断に活かせば、勘や経験だけに頼るのではなく、根拠ある戦略を立てられます。結果として、顧客満足度の向上や新商品の成功確率を高め、リスクを抑えながらより的確な意思決定につなげることができます。
テキストマイニングは、単に情報を分析するだけでなく、データを軸に企業全体のサービス現場を進化させるための重要な基盤となります。
KDDIデジタルデザイン株式会社のデジタルコンタクトセンターソリューションでは、AIによるFAQやマニュアルの横断検索、音声認識や対話の要約、テキストマイニングなどの技術を活用しています。これらを導入したことでオペレーターの通話時間と後処理時間が短縮され、応対品質の安定化や従業員の負担削減にもつながりました。
さらに、テキストマイニングは顧客体験 (CX) の向上にも貢献します。例えば、顧客の声 (VOC) を継続的に分析し、その知見を店舗スタッフやカスタマーサポートの接客に反映させることで、一人ひとりに合わせた提案やきめ細かなフォローが可能になります。リアルタイムに推奨対応を伝えるシステムを導入することで、顧客満足度の向上や購買意欲の促進、サービスや商品からの離脱防止にもつなげることができます。この事例の詳細は下記記事をご覧ください。
テキストマイニングを始めるには、次の二つの方法が推奨されます。一つはMicrosoft Excel (以下、Excel) を使った手軽な方法、もう一つは専用ツールを導入する本格的な方法です。
Excelを使う場合は、分析したい文章を整理したうえで、単語ごとに分割してセルに貼り付けます。その後、COUNTIF関数やピボットテーブルなどを使って単語の出現回数を集計し、グラフ化することで文章の傾向を可視化できます。作業には手間がかかりますが、文章分析の基本を学ぶには最適です。
もう一つの方法として、効率的かつ高度な分析を行いたい場合は専用ツールの導入が有効です。まず「顧客の不満を把握したい」といった目的を明確にし、予算や必要な機能を踏まえて自社に適したツールを選びます。それを踏まえてデータを取り込めば、共起分析や感情分析など複雑な処理も簡単に実行でき、結果も自動でわかりやすく可視化されます。
このように、入門にはExcel、本格的な活用には専用ツールを利用するなど、段階に応じて方法を選択することが重要です。
テキストマイニングを効果的に活用するには、いくつかのポイントがあります。
まずは、分析に使うデータの品質管理が重要です。誤字や脱字、表記揺れ、不要な記号などが残っていると、有意義な結果が得られない可能性があります。分析の前に不要な情報を整理し、適切に処理できる状態へ整えることが必要です。次に、プライバシーへの配慮も不可欠です。氏名や連絡先といった個人情報は、匿名化やマスキングなどの対策を講じるべきです。さらに、分析の目的を明確にすることも求められます。機械的な分析だけでは文脈や感情の微妙な違いを正確に捉えられない場合があり、誤った判断につながるおそれがあります。これらのポイントを意識して取り組むことで、テキストマイニングは真に価値ある成果を生み出す手段となります。
テキストマイニングは、SNSやアンケートなど膨大に蓄積される文章データを分析し、顧客の声や隠れたニーズを可視化できる強力な手段です。感情分析や共起分析など多様な手法を活用することで、商品開発やサービス改善に役立ち、顧客がより快適に利用できる環境づくりにもつながります。導入時にはデータ品質の確保やプライバシー保護、目的の明確化が重要です。適切に活用すれば、企業のデータドリブンな意思決定を支える武器となります。
KDDIは、企業のDX推進を多角的に支援するため、AIを活用しデータの利活用を支援します。データとAIの連携、企業内データの活用、データを保護する高度なセキュリティやセキュアな環境の提供など、導入時のコンサルティングから設計、構築までをトータルサポートします。データを活かしたビジネス変革に向けて、まずはお気軽にご相談ください。