※ 記事制作時の情報です。
クラウドセキュリティとは、クラウドサービス上のデータ、アプリケーション、インフラを保護するための一連の対策を指します。近年クラウドの利用が広がる一方で、設定ミスによる情報漏えい、不正アクセス、サイバー攻撃などのリスクも増加しています。
これらのリスクに対応するためには、クラウド事業者と利用者がそれぞれの責任範囲で対策を担う「責任共有モデル」の理解が不可欠です。安全なクラウド活用には、利用者側も主体的にセキュリティ対策に取り組む姿勢が求められます。
関連サービス: セキュリティ
現在、多くの企業が基幹システムや重要なデータをクラウドへ移行する「デジタルトランスフォーメーション (DX) 」を推進しています。また、リモートワークをはじめとする多様な働き方の普及により、場所を問わず社内データへアクセスする機会が増加しました。
これに伴い、従来の社内ネットワークを前提とした境界型防御モデルでは対応しきれない、新たなセキュリティリスクが顕在化しています。クラウド上に企業の重要情報が集約されることで、サイバー攻撃の標的となるリスクも高まっているのです。
このような背景から、事業の継続性を確保し、企業の社会的信用を維持するためには、クラウド環境に最適化されたセキュリティ対策の導入が急務となっています。
クラウド環境の変化とともに、クラウドサービスの利用拡大はセキュリティの重要性を高めるだけでなく、市場にも大きな影響を与えています。
総務省の「令和7年版 情報通信白書」によると、2024年の日本のパブリッククラウド市場は前年比26.1%増の4兆1,423億円に達しました。
企業のIT投資がクラウド中心へとシフトする中で、クラウドサービスは今後も拡大が見込まれており、関連するセキュリティ対策や運用管理のニーズもますます高まっていくと考えられます。
総務省が定めるクラウドセキュリティガイドラインは、クラウドサービスを安全に利用するための具体的な指針を提供するものです。これは、クラウドサービス事業者と利用者双方に、情報セキュリティマネジメントの観点から推奨される対策や留意事項を体系的に示しています。
具体的には、Boxのようなクラウドストレージやビジネスメールサービスなど、多様なクラウドサービスの利用を想定しており、セキュリティポリシーの策定、リスクアセスメントの実施、脆弱性管理、アクセス制御などの実践的なガイダンスが含まれています。
これらのガイドラインを参照することで、企業はクラウド環境におけるセキュリティレベルを向上させ、情報漏えいや不正アクセスなどのリスクを低減することが可能です。
参考: 総務省ホームページ「クラウドサービス提供における情報セキュリティ対策ガイドライン (第3版)」(PDF)
クラウドにおけるリスクは、不正アクセスや情報漏えいといった外部からの脅威だけでなく、設定ミスや内部不正といった内部の要因によっても引き起こされます。
以下ではクラウドセキュリティにおける主要なリスクと、それらに対処するための必須対策について詳しく解説します。
クラウド環境では、機密情報や個人情報が外部に流出するリスクが存在します。このデータ流出は、攻撃者がシステムの脆弱性を悪用したり、フィッシング詐欺で盗んだ認証情報を使ってシステムに侵入したりすることで発生します。
また、アクセス権限の設定ミスが原因で、本来アクセスできないはずの従業員や外部の人が重要なデータに触れてしまうケースも少なくありません。もしデータが流出してしまえば、企業は金銭的な損害だけでなく、お客さまや取引先からの信用も失い、事業の継続が難しくなる可能性もあります。
このような事態を防ぐためには、アクセス制御の徹底や多要素認証の導入、定期的な脆弱性診断といった対策が不可欠です。
インターネットを介して利用されるクラウドサービスは、常に外部からの攻撃にさらされています。代表的な攻撃手法には、サーバーに大量のデータを送りつけてサービスを停止させるDDoS攻撃、データを暗号化して身代金を要求するランサムウェア攻撃、アプリケーションの脆弱性を突いて不正に侵入する攻撃などがあります。
こうした攻撃を受けると、サービス停止によるビジネス機会の損失や、データ復旧に多大なコストと時間を要するなど、事業への影響は深刻です。
クラウドプラットフォーム自体が堅牢であっても、その上で稼働するアプリケーションや設定の不備が攻撃の起点となることもあります。
対策としては、多要素認証の導入、OSやアプリケーションの定期的な脆弱性診断と修正、Webアプリケーションファイアウォール (WAF) の導入などが有効です。
サイバー攻撃やシステム障害、従業員の操作ミスなど、さまざまな要因によってクラウド上のデータが消失するリスクも存在します。
例えば、ランサムウェア攻撃によってデータが暗号化され、復旧不能になるケースや、管理者が誤って重要なデータを削除してしまうケースが考えられます。
多くのクラウドサービス事業者はデータの冗長化やバックアップ体制を整備していますが、それだけではすべてのリスクをカバーできるわけではありません。
特に利用者側の設定ミスや管理不備によるデータ消失は、サービス提供者の責任範囲外となる場合が多いです。
重要な業務データが失われれば、事業の継続が困難になるため、利用者側でも定期的なバックアップと復旧テストの実施が不可欠です。
クラウドの利用が拡大し、複数のサービスを組み合わせて活用するようになると、データの保存場所や管理者が不明確になりがちです。その結果、統一的なデータ管理が困難になり、ガバナンスの曖昧さが課題となります。
さらに、各部門が独自にクラウドサービスを導入すると、全社的なセキュリティポリシーが適用されず、データの管理責任も不明瞭になります。これにより、データの分類やアクセス制御が不十分となり、情報漏えいやコンプライアンス違反のリスクが高まります。
こうしたリスクを回避するためには、データ管理の方針を明確に定め、各部門が利用するクラウドサービスを一元的に把握・管理することが重要です。
クラウド上にお客さまの個人情報やプライベートなデータを保存する場合、個人情報保護法やGDPR (EU一般データ保護規則) といった国内外の法規制を遵守する必要があります。
データの保存先が国外のデータセンターである場合、現地の法律が適用される可能性も考慮しなければなりません。
これらの規制への対応が不十分な場合、規制当局から高額な制裁金を科されるだけでなく、企業のブランドイメージが大きく損なわれるリスクがあります。
データの越境移転に関するルールや、本人からのデータ開示要求への対応手順など、プライバシー保護の観点から適切な管理体制を整備することが極めて重要です。
シャドーITとは、企業のIT部門の許可や管理下にないクラウドサービスを、従業員が業務目的で個人的に利用することです。従業員は業務効率化を目的として利用することが多いですが、これらのサービスは企業のセキュリティポリシーの対象外となるため、認証強度が不十分であったり、データの取り扱い規約が企業の基準を満たしていなかったりするリスクがあります。
その結果、情報漏えいやマルウェア感染の温床となりやすく、セキュリティインシデントが発生してもIT部門が状況を把握できず、対応が困難になるという問題が生じます。
対策としては、従業員へのセキュリティ教育を徹底し、シャドーITのリスクを周知することが重要です。また、安全な代替サービスを社内で提供し、利用ルールを明確化することで、シャドーITの発生を抑制できます。
クラウドセキュリティ対策の理論や方法論を学ぶことも重要ですが、過去に実際に発生したインシデント事例から教訓を得ることは、リスクをより現実的なものとして捉え、対策の必要性を深く理解する上で非常に有効です。
ここでは、クラウドの設定不備や不正アクセスが原因で発生した国内の代表的なインシデント事例を紹介します。
ある国内大手電気メーカーにおいて、攻撃者がフィッシングメールを用いて従業員のアカウント情報を窃取し、Microsoft 365へ不正にアクセスした事例が発生しました。
この攻撃により、従業員のメールボックスやクラウドストレージ内に保管されていた約2万件の機密データが外部に流出したと報告されています。
この事例の背景には、多要素認証の運用が不十分だった可能性や、従業員が不審なメールに気づかず認証情報を入力してしまったことが挙げられます。
インシデント後の調査レポートでは、認証方式の運用やセキュリティポリシーの見直しの必要性が浮き彫りとなり、技術的対策と従業員教育の両面から対応することの重要性が改めて認識されました。
ある大手インターネット事業者が利用していたクラウド型の営業支援システムにおいて、アクセス権限の設定に不備があったことが原因で、大規模な情報流出が発生しました。本来は認証されたユーザーのみが閲覧できるはずの顧客情報を含むデータベースが、インターネット上で誰でもアクセス可能な状態になっていたのです。
この設定不備により、最大で約149万件の個人情報や企業情報が外部に流出した可能性があると報告されています。
この事例は、クラウドサービスの利便性の裏で、利用者側が担うべき設定管理の責任がいかに重要かを示しています。クラウド事業者のセキュリティ機能に頼るだけでなく、利用者自身も定期的に設定を確認・監査することの必要性が改めて認識されるきっかけとなりました。
ここでは、KDDIのソリューションやコンサルティングを活用してクラウドセキュリティを強化した企業の事例を3つ紹介します。
医療機器業界のある企業では、社内外のIT機器の運用保守に多くの手間と時間を要しており、特に障害対応や海外拠点の管理が課題でした。そこでKDDIの「ITアウトソースセンター」を導入し、24時間365日の監視・保守体制を構築。障害対応やアップデート作業を委託することで、担当者の負担を軽減し、DX推進やセキュリティ強化など本来業務に集中できる環境を実現しました。従来の社内運用体制と比較して運用の質も向上し、トラブルの未然防止にも貢献しています。
導入事例: 日本光電工業株式会社 様
金融サービス業界のある企業では、物理サーバーの運用管理負担や柔軟な働き方への対応に課題を抱えていました。KDDIの「cloudpack with KDDI」を活用し、社内システムをフルクラウド化。クラウド型仮想デスクトップや監視・保守サービスの導入により、セキュアで快適なテレワーク環境を実現しました。これにより、運用負担が軽減され、本来業務に集中できる体制が整い、保守費用も30%以上削減されました。
導入事例: auフィナンシャルサービス株式会社 様
住宅設備機器業界のある企業では、スマートフォンで浴槽を遠隔操作するIoTサービスの開発に取り組む中で、クラウド環境の選定や複数ベンダーとの連携に課題を抱えていました。KDDIは、要件定義から開発・運用までを一貫して支援し、プロジェクト全体をPMOとして推進。AWSを活用したクラウド環境を構築することで、セキュリティと保守性を両立し、短期間で安定したサービスの開発を実現しました。今後のサービス拡張にも柔軟に対応できる強固な基盤が構築されました。
導入事例: TOTO株式会社 様
クラウド市場の拡大が続く中、クラウドセキュリティの重要性は今後ますます高まっていくと考えられます。本記事で紹介したように、クラウドの利用にはデータ流出やサイバー攻撃など、さまざまなリスクが伴います。しかし、適切な対策を講じることで、安全性を確保することは十分に可能です。
インシデント事例や対策事例を参考に、自社のセキュリティ体制を見直すことが求められます。対策を進める際には、総務省や経済産業省、米国NISTが公開しているクラウドセキュリティガイドラインや各種ホワイトペーパーが非常に有用です。
さらに、最新の脅威動向や対策技術を学ぶためには、関連するイベントやセミナーへの参加も効果的です。
セキュリティインシデントは企業の信用や株価に影響を及ぼす可能性があるため、経営課題として捉え、継続的に取り組みましょう。
KDDIでは、お客さまの環境や目的に合わせて、さまざまなクラウドセキュリティサービスをご用意しています。クラウドサービスの構築から運用まで、ワンストップでサポートし、セキュリティに配慮した最適なクラウド環境を実現します。
クラウドセキュリティについては、ぜひKDDIにご相談ください。