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※ 記事制作時の情報です。
人手が足りない、担い手が高齢化しているなど、農業の現場が抱える課題は年々深刻化しています。今や昔ながらのやり方だけでは、安定した生産や経営の維持が難しくなりつつあります。その中で注目を集めているのが、AIやロボット、センサーなどの技術を活用したスマート農業です。農林水産省では、「ロボット技術や情報通信技術 (ICT) を活用して、省力化・精密化や高品質生産を実現する等を推進している新たな農業」(注1) と定義しています。
データをもとにした管理や、栽培・収穫の自動化によって、省力化だけでなく生産精度の向上も図れます。経験の少ない人でも成果を上げやすくなり、農業への新規参入のハードルも下がっています。すでに国内外のさまざまな地域でこうした取り組みが始まっていて、農業の未来を支える実践が広がりつつあります。
スマート農業の主役は、AI・IoT・ビッグデータの3つの技術です。まず注目したいのがAIの進化です。例えば、ドローンやカメラで撮った作物の画像をAIが自動解析します。それは病気や害虫を早期に見つけることができるうえ、過去の栽培データや天候をもとに、種まきや収穫のベストタイミングも予測してくれます。収穫量の向上にも貢献しているといっても過言ではありません。それ以外に話題を集めているのが、自動走行のトラクターやロボット収穫機です。これらの操作にもAIが活用されており、深刻な人手不足をカバーしています。
次にIoTです。これは、畑やハウスに設置したセンサーで土の水分や温度、湿度を測り、リアルタイムで情報を集めます。そのデータをもとに、必要な水や肥料を適切なタイミングで与えることができ、スマートフォンやタブレットから遠隔操作できるため作業の負担を軽くすることが可能です。
さらに、ビッグデータは、天気や市場の動き、消費者の好みなど多くの情報をまとめて分析します。これによって、いつ何を作るのが効率的かを科学的に判断できるようになり、地域に合った栽培方法の開発や長期的な農業計画にも役立っています。
日本では、ドローンを活用した農薬散布や作物の生育分析が進み、必要な箇所にだけピンポイントで農薬を散布できるようになっています。北海道岩見沢市では、スマート農業の実証プロジェクトとして、自動運転トラクターを活用した耕起や残渣処理作業の効率化、運転アシスト機能付きコンバインによる収穫作業が行われました。遠隔監視のもとで作業を進めた結果、従来と比べて作業時間を大幅に短縮することに成功。農業の人手不足や高齢化といった課題に対して、先進技術が現場の力となることを示す好例となっています。(注2)
スマート農業の先進国・オランダでは、政府・企業・研究機関が連携し、温室内の環境制御や葉かきロボットなどの自動化技術を開発しています。特にワーヘニンゲン大学研究センターでは、持続可能な生産や地域適応型の施設設計を研究し、3Dセンサーによるトマト種苗の選別装置も実用化。省力化と高品質生産を両立する仕組みが整っています。(注3)
こうした事例は、人手不足や気候変動といった課題に対応するヒントとなり、持続可能な農業への道を切り拓いています。
スマート農業では、ロボット技術やAI、IoT、ビッグデータといった最先端技術を活用した多様な取り組みが進んでいます。
例えば、兵庫県豊岡市では田植えや収穫の自動化、京都府舞鶴市ではIoTセンサーによる環境モニタリング、宮城県東松島市ではビッグデータを生かした高収益作物の導入といった事例があり、効率化や生産の安定化を実現しています。
豊岡市では、特別天然記念物のコウノトリが生息できる安全な環境づくりの一環として、無農薬栽培の「コウノトリ育む農法」を推進しています。この農法では、雑草対策や害虫の天敵であるカエルやヤゴを増やすために、水田に通常より長期間水を張る必要があり、水管理の負担が非常に大きいのが課題でした。特に大規模農家では、水田の区画が小さく複数の地区にまたがることが多いため、水管理作業が労働時間の約半分を占めていました。そこで豊岡市は、水位や水温を測定するセンサーを水田に設置し、パソコンだけでなくスマートフォンやタブレットでも遠隔で監視できるシステムを導入しました。このシステムは異常をメールで知らせる機能も備え、迅速な対応を可能にしています。農家からは水管理の負担軽減に対する期待が寄せられており、豊岡市は今後もスマート農業技術の活用を進めていく考えです。
舞鶴市では、特産品「万願寺甘とう」の安定した高品質栽培を目指し、スマート農業技術の導入を進めています。万願寺甘とうは「京のブランド産品」第一号に認証されており、地元の生産者約100戸が部会を組み、厳しい品質基準のもとで栽培を行っています。しかし、栽培環境や技術の違いから収量に大きなばらつきが生じていました。そこで舞鶴市はKDDIと連携し、2020年からビニールハウス内にIoTセンサーを設置。温度、湿度、日照、土壌温度・水分量・pH、CO2などを10分ごとにリアルタイムでクラウドへ送信し、データを可視化しています。これにより熟練者の栽培ノウハウの見える化を進め、栽培管理のばらつきを解消し、安定した生産につなげることが期待されています。今後はデータ共有の範囲を拡大し、生産者全体の技術向上を目指しています。
東松島市の津波被災地に開設された「幸満つる 野蒜農園」では、AI潅水施肥システム「ゼロアグリ」や、ネットワークカメラの映像を通して、作物の状態を遠隔地からも確認できる「屋外クラウド録画パッケージ」など、スマート農業技術を活用した農業が展開されています。水やりや施肥の自動化により作業負担が軽減され、収量は夏季で2.5倍に向上。障がい者の雇用にも貢献しており、個々の特性に応じた作業環境が整備されています。KDDIとKDDIエボルバ (注4) 、市が連携し、震災跡地の利活用と雇用の課題解決を同時に進めるこの取り組みは、やりがいのある職場づくりにもつながっています。IoTによるデータ可視化がノウハウの蓄積に役立ち、効率だけでなく品質向上にも寄与。人と技術が補完し合いながら、新たな農業のかたちが築かれています。
スマート農業には、生産性の向上や品質の安定、コスト削減など、多くのメリットがあります。主な利点として、次の5つを紹介します。
農業はこれまで、時間も体力もかかる大変な仕事とされてきました。スマート農業は、そうした負担を大きく減らす新しい方法です。負担軽減の一例として、GPS付きのロボットトラクターで人の手を動かさず夜間でも畑を正確に耕せること、これまで数時間かかっていた農薬の散布もドローンで時間短縮できるようになるなど、さまざまな効果があります。また、自動の水管理システムを使えば、スマートフォンやタブレットで田んぼの水位を遠隔操作も可能です。こうした技術を取り入れることで作業時間や人手が少なくでき、農家の負担は大きく軽減されます。その結果、一人で管理できる農地も広がり、人手不足の解消にもつながっています。
農業は作物の品質や収量など天候に大きく左右されるものです。また、これまでの経験や勘も重要な要素でした。スマート農業を取り入れることで、作物が育つ環境が保たれるようになり、天候不順の年でも味や形のばらつきが少ない高品質な農産物を安定して収穫できるようになります。具体例として、畑に設置されたセンサーが、土壌の水分や栄養状態、気温、日照時間といった作物の生育に欠かせない情報を24時間収集します。その膨大なデータをAIが分析し、水やりの最適なタイミングや肥料が不足している場所などをピンポイントで農家に知らせることができ、安定した栽培が可能になります。
農業経営では、肥料や農薬、燃料などのコストが大きな負担になっています。しかも、これらを使いすぎると、土や川などの自然に悪い影響を与えることもあります。そこで注目されているのがスマート農業です。ICT技術を使って作物の状態をチェックし、必要な場所に、必要な量だけ肥料や農薬をまくことが可能になりました。畑全体に一気にまいていた従来のやり方に比べて、ムダが少なく、コストも一段と抑えられるようになったことは大きな変化です。環境にやさしく、まさに次世代の農業といえるものです。
農業が抱える課題に、後継者不足と熟練農家の高齢化があります。長年の経験で培われた技術と勘は、言葉で教えるのが難しく、失われつつありました。しかしスマート農業では、この貴重な技術をデータとして見える化できるようにしました。いつ、どのような作業を行い、その結果どうなったかという栽培の全記録をデータとして保存して分析することで、栽培の手順や工夫が一目でわかる“栽培の指針となる仕組み”を構築しました。新しく農業を始める人は、この仕組みを参考に作業を進めることで、短期間で質の高い栽培技術を習得でき、後世に残したい技術が、確実に受け継がれています。
スーパーで野菜を手に取ったとき、「これはどこで、どのように作られたのだろう」と気になることがあります。スマート農業は、種まきから収穫までの全工程の栽培履歴がすべてデータとして記録・管理されるため、消費者は商品のQRコードを読み込むだけで、その作物の「履歴書」をスマートフォンで確認して、見える化ができます。これは消費者の食への信頼を深めると同時に、生産者のこだわりを証明する方法にもなります。確かな情報が農産物のブランド価値を高め、農家の所得向上にも繋がります。
スマート農業の課題として、初期費用の高さ、ITスキルの必要性、トラブル時の対応の難しさが挙げられます。それぞれを詳しく紹介します。
スマート農業はとても便利ですが、導入には自動運転トラクターやドローンなどを購入しないといけないために初期費用がかかるという大きなハードルがあります。さらに、システムの利用料やメンテナンス代といった、ランニングコストも考えなくてはなりません。そのため、すぐに元が取れるわけではないことを見越して、しっかりとした資金計画を立てることが大切です。費用負担を軽くするために、国からの補助金を利用したり、地域の農家と機械を共同で使ったりしてコスト削減をするのも有効です。
スマート農業の機器は、操作や設定にある程度のIT知識を必要とします。土づくりや作物の育て方には長けていても、タブレットやクラウドシステム、AIツールなどの使い方に慣れていない農業者も多く、とくに高齢者にとっては導入が心理的な負担になることもあります。導入後の学習やサポート体制が不十分だと、せっかくの機器が活用されず、宝の持ち腐れになりかねません。そのため、使い方をわかりやすく学べる研修や、地域にITに強い支援者を配置するなどの支援が求められています。
スマート農業では、ネットワークに接続されたシステムを多用するため、機器の不具合や通信障害が起こった場合、自力での復旧が難しいケースもあります。例えば、遠隔操作による水管理ができなくなったり、ドローンの動作が不安定になったりと、農作業に影響が出る可能性もあります。こうしたトラブルに対応できる人材や体制が整っていないと、作業の遅れや品質低下につながるおそれがあります。信頼できるサポート企業の存在や、導入前のリスクマネジメントも重要な課題です。
スマート農業を始めるには、高性能な機器やシステムの導入にかかる初期投資が必要です。そこで活用したいのが、国や自治体が提供する補助金や支援制度です。導入コストの概要とあわせて、公的支援の内容や申請のポイントを紹介します。
スマート農業を始めるには、目的に応じた設備や機器を揃えなければいけません。そのための初期費用は、数十万円から数千万円と幅広く、選ぶ技術によって大きく変わります。具体例として、農業用のドローンは100万円~300万円、収穫用ロボットは1台500万円、GPS付きのロボットトラクターは1,000万円程度かかると言われています。農地に設置する温湿度や土壌センサーは1台当たり 数万円からですが、複数台を組み合わせると合計で100万円を超えるケースもあります。さらに、クラウドサービスの利用料や通信機器、アプリケーションのライセンス料といったランニングコストも考えなければいけません。個人での負担が難しい場合には、地域の農業法人や協同組合と連携して共同導入することで費用を分担する方法もあります。導入前には、どの技術が本当に必要かを見極め、長期的な視点で投資効果を考えることが大切です。
スマート農業を始めたいと考えている方には、導入コストを軽減できる公的な支援制度がいくつも用意されています。
例えば、農林水産省が実施する「スマート農業・農業支援サービス事業導入総合サポート緊急対策事業 第4次公募」では、
「農業支援サービスの立上げ支援のうちスマート農業機械等導入支援」として、地域型サービス支援タイプにおいて、スマート農機に導入にかかる費用の1/2 (上限1,500万円・機械導入時は上限3,000万円) が補助されます。ただし、第4次公募の申請期間は2025年8月22日までとなっており、次の公募時期は現在発表されていません。(注4)
この他にも、農林水産省では「農地利用効率化等支援交付金」の中に、スマート農業機器の導入を優先的に支援する「スマート農業優先枠」が設けられています。
この制度では、ドローンや農業用機械の自動操舵システム、土壌センサー搭載型可変施肥田植機、生産管理最適化システムなど、データに基づいた効率的な農業経営を可能にする機器が対象となります。これらを導入する際、一定の要件を満たせば、購入費の一部について補助が受けられます。
「融資主体支援タイプ」と「条件不利地域支援タイプ」の2種類があり、一定の要件を満たせば、前者は事業費の10分の3以内 (上限300万円) 、後者は整備内容ごとに2分の1 (農業用機械は3分の1) を乗じて得た額の合計額 (上限4,000万円) が支給されます。(注5) 補助対象や条件には細かな規定があるため、詳細は農林水産省のWebサイトでご確認ください。
申請の相談は、農林水産省や自治体、JA、地域の農業普及センターなどで受け付けています。導入を検討している方は、早めに情報収集を始めましょう。
農業の現場では、担い手不足や高齢化が深刻な課題となっています。その打開策として登場した、作業の自動化や効率化を実現するスマート農業が広がりを見せています。
AIやロボット、IoTを使えば、作業時間を短縮しながら高品質な農作物を生産できるようになりました。ただし、導入には高額な設備投資やIT活用の知識が必要となるため、国や自治体の補助金や研修などの支援策を活用し、未来につながる農業に踏み出すことが求められています。
KDDIは、AIやドローン、IoTなど先端技術を各要所で活用し、スマート農業事業を積極的に推進し、地域産業の発展を目指しています。日本の農業が抱える農業課題のさらなる解決に向けてAI時代の新たなビジネスプラットフォーム「WAKONX」を通じた社会課題解決に貢献地域産業の発展を目指します。