※ 記事制作時の情報です。
サイバーセキュリティとは、コンピューターやネットワーク上で扱うデータを不正なアクセスや攻撃から守る取り組みのことです。具体的には、個人情報や機密データ、業務システムなどを安全に利用できるようにすることを目的としています。デジタル化の進展により、サイバー攻撃の対象が拡大し、手口も巧妙化しています。警察庁が2025年3月に発表した「不正アクセス行為の発生状況」によると、2024年の不正アクセスの認知件数は5,358件、企業における平均被害額は数千万円規模にのぼります。
関連サービス: マネージド ゼロトラストによるソリューション
出典: 警察庁「不正アクセス行為の発生状況及びアクセス制御機能に関する技術の研究開発の状況」(PDF)
サイバーセキュリティと情報セキュリティは混同されやすい言葉ですが、保護の対象範囲が異なります。情報セキュリティは、紙の書類や口頭での伝達内容などを含む「すべての情報資産」を守ることを指します。一方でサイバーセキュリティは、インターネットやネットワーク上でやり取りされる「電子的な情報」を対象にしています。例えば、紙の契約書を施錠された収納庫で保管するのは情報セキュリティの対策ですが、オンライン契約データを暗号化して保護するのはサイバーセキュリティの取り組みです。どちらも情報を守るという目的は同じですが、適用される手法やリスクの発生場所が異なります。企業が情報管理を行うには、両者をバランスよく組み合わせることが大切です。
企業や組織が日常的に直面するサイバー攻撃は、年々巧妙化し被害も拡大しています。ここでは、特に注意が必要な代表的な攻撃手法を7つ紹介します。それぞれの特徴を理解し、早期に検知・防御できる仕組みを整えることが重要です。
マルウェアとは、「悪意のあるソフトウェア」の総称で、ウィルスやスパイウェア、トロイの木馬などが含まれます。中でもランサムウェアは近年被害が急増している攻撃の一つです。ランサムウェアはパソコンやサーバーに感染すると、ファイルを暗号化して使用不能にし、元に戻すための「身代金」を要求します。感染経路の多くは、不審なメールの添付ファイルや改ざんされたWebサイトの閲覧によるものです。実際に、国内外の企業が業務停止や顧客情報流出などの深刻な被害に遭っています。対策としては、定期的なバックアップの実施、信頼できるセキュリティソフトの導入、メールの送信元やリンク先の慎重な確認が欠かせません。
標的型攻撃とは、特定の企業や組織を狙った巧妙なサイバー攻撃です。攻撃者は企業の関係者を装ってメールを送り、添付ファイルやURLを使ってマルウェアを侵入させます。特徴的なのは、攻撃の目的がはっきりしていて、標的の重要な情報を長期間にわたり密かに盗み出す点です。特に「APT: Advanced Persistent Threat (高度標的型攻撃)」と呼ばれる方法は、複数の工程を経てシステムに潜伏し続けるため、一般的なウィルス対策ソフトでは発見が難しく、非常に防ぎにくい攻撃といえます。そのため、社内で不審なメールへの警戒心を高め、送信元をしっかり確認する習慣づけ、そして万が一侵入されても影響を抑える多層的なセキュリティ対策が重要になります。
フィッシング詐欺は、実在の企業や金融機関を装ったメールやSMSを送り、偽のWebサイトへ誘導して個人情報を盗み取る手法です。利用者が誤って偽サイトにIDやパスワード、クレジットカード情報などを入力すると、その情報が攻撃者に渡ってしまいます。メールの差出人やロゴが本物そっくりに作られているため、見分けが難しいことが特徴です。見分けるポイントとしては、送信元のアドレスに不自然な文字が含まれていないか、URLが公式サイトのものと一致しているかを確認することが大切です。対策としては、リンクを直接クリックせず公式サイトを自分で検索してアクセスする習慣を持つこと、そして多要素認証を導入して情報流出後の被害を最小限に抑えることが効果的です。
ゼロデイ攻撃とは、ソフトウェアの「まだ修正されていない脆弱性 (ぜいじゃくせい)」を突く攻撃です。脆弱性が発見されてから修正版が提供されるまでの期間を狙うため、開発元や利用者が気づかないうちに被害が発生します。この手法の厄介な点は、既知のウィルスパターンでは検知できないことです。攻撃者は脆弱性の情報を専門サイトなどから入手し、いち早く悪用します。対策としては、OSやソフトウェアを常に最新の状態に保つことが基本です。また、不必要なプログラムの削除や、侵入検知システム (IDS) を導入することで、異常な挙動を早期に発見することも有効です。未知の脅威に対しては、予防的な管理体制の構築が重要になります。
SQLインジェクションとは、Webサイトの検索欄や問い合わせフォームに悪意のあるプログラムコード (SQL文) を仕込み、不正操作する手法です。具体例として、ショッピングサイトのログイン画面で特殊な文字列を入力することで、攻撃者がパスワードを知らなくても管理者として侵入し、顧客の個人情報や決済データを盗み出すことが可能になります。防御策としては、ユーザーが入力したデータを厳格に検証する仕組みの導入や、データベースへの命令を処理する「プリペアドステートメント」という技術の活用が重要です。また、システム公開前の段階で専門的なセキュリティ検査を実施することにより、脆弱性を事前に発見・修正できます。
DoS/DDoS攻撃とは、Webサイトやサーバーに対して、処理しきれないほどの大量のアクセスやデータを送りつけ、サービスをダウンさせてしまうサイバー攻撃です。一台のコンピューターから攻撃するのが「DoS攻撃」、多数のコンピューターを乗っ取って一斉に攻撃するのが「DDoS攻撃」と呼ばれます。
この攻撃を受けると、Webサイトが表示されなくなり、顧客がサービスを利用できなくなるため、ビジネスに直接的な打撃を与えます。対策としては、異常なアクセスを自動的に見つけてブロックしてくれる専用の防御サービスを導入したり、ネットワークを常に監視して、異変にいち早く気づける体制を整えたりすることが重要です。
中間者攻撃 (MITM: Man-In-The-Middle Attack) とは、通信の途中で第三者が割り込み、本来の送信者と受信者の間でデータを盗み見たり、内容を改ざんしたりするサイバー攻撃です。特にカフェや駅などの公衆Wi-Fiのように暗号化されていないネットワーク環境では、攻撃者が簡単に通信内容を取得できてしまいます。こうした被害を防ぐには、できる限り信頼できるネットワークを利用し、VPN (仮想専用線) で通信を暗号化することが効果的です。また、利用するWebサイトのURLがhttpsで始まっていることを確認して、暗号化通信が行われているかチェックすると安心です。
サイバー攻撃は年々巧妙化しており、企業や組織はさまざまな角度から守りを固める必要があります。ここでは、ITや情報システムを運用するために欠かせない主要な5つのセキュリティ分野を紹介します。
ネットワークセキュリティは、企業の内外をつなぐ通信経路を守るための仕組みです。主な技術として外部からの不正アクセスを防ぐファイアウォールと通信を暗号化して安全に行うVPNが挙げられます。これらを導入することで、情報漏えいや不正侵入のリスクを大幅に減らせます。また、ネットワークを常時監視して異常を検知する仕組みや、利用者ごとにアクセス範囲を制限するアクセス制御も欠かせません。安全な通信環境を維持するためには、複数の対策を組み合わせることが重要です。
エンドポイントとは、社員が利用するパソコンやスマートフォン、タブレットなどの端末を指します。これらの端末は、外部との接点が多く攻撃者に狙われやすいため、セキュリティ対策が欠かせません。もし1台でも感染や侵入を許してしまうと、社内ネットワーク全体に被害が広がるおそれがあります。そのため、ウィルス対策ソフトの導入に加え、端末上の不審な動きを検知して即座に対応できるEDR (Endpoint Detection and Response) や紛失時に遠隔でデータを管理できるMDM (Mobile Device Management) を導入する企業も増えています。
クラウドは便利な一方、情報やデータを外部に預けるため、設定ミスや共有範囲の誤りによる情報漏えいなど、特有のリスクがあります。例えば、アクセス権限を誤って「全員に公開」に設定してしまうと、機密情報が外部に流出する危険があります。そのため、クラウド事業者と利用者の間では「責任共有モデル」という考え方が採用されており、事業者がシステムを守り、利用者はデータやアクセス権限を適切に管理します。特にデータの暗号化とアクセス管理が重要で、技術と運用の両面で対策が欠かせません。
アプリケーションセキュリティは、ソフトやWebアプリを安全に動かすための対策です。開発段階から入力検証・認証/認可・暗号化などのセキュアコーディングを実施し、公開前はペネトレーションテスト (侵入テスト) で外部からの攻撃に耐えられるかを検証していきます。アプリのリリース後も継続的な点検と修正を行うことが安全な運用につながります。
ゼロトラストとは、誰も、何も、最初から信頼しないという前提で考える新しいセキュリティモデルです。従来の境界防御型では、社内ネットワークの内部を安全とみなし、外部からの侵入を防ぐことに重点を置いていました。しかし、テレワークやクラウド利用が広がり、内部に侵入された場合の被害を防ぐには限界があります。ゼロトラストでは、すべてのアクセスを検証し続けることが基本です。社内のアクセスでも、ユーザーの身元や端末の状態を確認し、許可が得られた場合のみ接続を認めます。これを支えるのが、パスワードに加えて指紋やワンタイムパスワードなどを組み合わせる多要素認証と、セキュリティや品質が維持されているかを継続的かつ自動的に評価するといった仕組みです。
企業がすぐに取り組める具体的なサイバーセキュリティ対策を4つ紹介します。大規模な仕組みを導入する前に、基本的な対策を行いましょう。
これらを組み合わせることで、組織全体の防御力を高められます。
サイバー攻撃の多くは、古いOSやアプリケーションの脆弱性を狙います。OSやアプリケーションのアップデートは、基本的で効果的なセキュリティ対策の一つです。定期的にアップデートを確認し、自動更新を設定しておくと効率的です。また、社内システムを管理している場合は、全端末の更新状況を把握し、未適用の端末を早期に特定・対応する体制が重要になります。適用前にはバックアップ (スナップショット/重要データの複製) を取り、万一の不具合に備えましょう。業務影響を抑えるため、段階適用 (テスト→本番) やメンテナンス時間帯の設定も有効です。
システム対策だけではサイバー攻撃を完全には防げません。従業員一人ひとりが正しい知識を身につけることで、組織全体のリスクを大きく下げられます。実践的なセキュリティ教育として、フィッシング詐欺の見分け方やパスワード管理、模擬攻撃メールによる訓練で実際の手口を体験するなどが有効です。併せて、会社として守るべきルールをまとめたセキュリティポリシーを策定し、全員が理解・遵守できるよう周知と教育を徹底しましょう。
多要素認証は、パスワードに加えて所持情報 (スマートフォンのワンタイムコードや物理キー) や生体情報 (指紋・顔認証) など複数の要素で本人確認を行う仕組みです。仮にパスワードが漏れても、ほかの要素が一致しなければ不正ログインを防げます。スマートフォンアプリでの認証が一般的で、導入コストを抑えやすい点も利点です。特にリモートアクセスやVPN、クラウドサービスの利用時に有効で、管理者アカウントには必須といえます。組織全体で導入し、バックアップコードや復旧手順も整備すると、なりすまし被害を大幅に減らせます。
最近のサイバー攻撃は非常に巧妙で、従来のセキュリティ対策だけでは万全な対策とはいえません。そこで注目されているのが、AI (人工知能) を搭載したセキュリティツールです。これらのツールは、ネットワーク内の膨大な通信の様子を常に監視し、いつもと違う怪しい動きをAIが自動で検知します。特に、パソコン内部の不審な動きを捉えるEDR (Endpoint Detection and Response) などの技術と組み合わせることで、万が一ウィルスが侵入してしまっても、その後の被害拡大を食い止められます。
サイバー攻撃はどのような企業も標的になり得る時代です。セキュリティ対策は一度行ったら終わりではなく、見直しと改善を続けていかなければいけません。最新のツールを導入する技術的な対策はもちろん重要ですが、同時に、従業員一人ひとりがセキュリティ意識を持つことも欠かせません。基本的な対策を徹底するだけでも、被害に遭うリスクは大幅に減らせます。技術と人の両輪で、粘り強く対策を続けることが、変化し続ける脅威から会社を守り、事業を継続していくための有効な方法といえます。
KDDIは、企業のセキュリティ課題を総合的に支援する多彩なセキュリティサービスを提供しています。社内ネットワークやクラウド、リモートアクセスなど、あらゆる環境で業務を行える仕組みを構築し、24時間365日の監視体制で運用をサポートします。アクセス制御や多要素認証、デバイス管理など、ゼロトラストの考え方に基づく多層防御、専門スタッフによる設計から運用まで一括支援することで、本業に集中できます。