KDDIは今年、発足25周年を迎えました。これまで築いてきた信頼と挑戦の歴史を土台に、今後どのように変革を成し遂げ、その価値をお客さま企業の事業成長や発展につなげていくのか。代表取締役社長 CEOの松田 浩路が、その思いを語ります。
25年目の節目となるこの年に、私は経営のバトンを受け取りました。これまで築いてきた信頼と挑戦の歴史を土台に、そこに変革や創意工夫を加えながら、未来に向けて進化していくことが私の責務だと考えています。
これまでを振り返って一貫して言えるのは毎年、「先行きが不透明」と言い続けてきたことではないでしょうか。事実、現在も、経済の不確実性、技術革新の速さ、地政学的リスクの増大等、経営環境が一層複雑になっています。ただそうした不透明さがあっても、我々はその都度乗り越えてきた歴史と自信があります。今日は現代の課題に対して「変革」や「創意工夫」をもって具体的にどのように対応していくのか考えてみます。
はじめに、タイトルにも掲げた「光と影」についてお話します。
影とは言うまでもなく、物体によって光線が妨げられた暗い部分のことです。左の絵は、大きな岩が光をさえぎっています。時が経てばいつか光が差し込むかもしれませんし、差し込まないかもしれません。一方、右の絵では、影の原因になっている岩を取り除くことで、光を差し込む状況を自ら作り出しています。経営者に求められるのは、神学者ニーバーの言葉にあるように、変えなければならないものを見極め、自発的に影の原因を取り除く姿勢、まさに岩をも穿つ強い意志、だと考えています。そして、どの企業にもそのような決断を下してきた歴史があるのではないでしょうか。
KDDIの事業にも、影を光に変えてきた歴史があります。例えば、インターネットが登場した当初、お客さま企業からは「不確かなインターネットに重要な情報を流すのは不安だ」といった声も多く寄せられました。
しかし私たちは、新しい技術の登場に伴う“不安”という影に向き合い、VPNの概念を取り入れて品質を向上させることで、お客さまに安心してご利用いただける環境を実現しました。同様に、クラウドの黎明期には、「オンプレで十分」「クラウドは何が起きるかわからない」という慎重な声もありましたが、セキュリティ強化やゼロトラストの導入を通じて、クラウド利用が当たり前になる環境を整えてきました。
さらにはスマートフォンへの移行期においては、フィーチャーフォンがあまりに洗練されていたこと、スマートフォンの品質への不安があったこと等から私自身大変躊躇したことを今でも鮮明に覚えています。
これらに共通するのは、新しい技術には常に「不完全さ」が伴うということです。不完全だからこそ軽視をしてしまう、それらが持つ潜在的なポテンシャルを見逃してしまう、いや、見なかったことにしてしまうのです。
そして現代の「光と影」を考えるにあたり、AIを抜きには語れません。AIにも当然「不完全さ」があり、「影」として良く指摘されるポイントです。しかしAIの持つ潜在力に直視せねばなりません。この影は必ずや光に変わっていく、変えていく。それを実行するのがわれわれの果たす役割でもあり、この変化を見越しておくことが経営の重要な点だと考えています。私が理事を務める一般社団法人AIガバナンス協会では、会員企業も110社を超え、AIの積極的な活用における適切なガードレールの在り方について、活発な議論が行われています。
また、AIの急速な進化や利活用の本格化に伴い、サイバー攻撃の件数も増加しています。過去10年でその数は10倍以上に増え、DDoS攻撃やランサムウェア攻撃などの脅威だけでなく、攻撃手口の巧妙化も深刻な課題となっています。こうしたセキュリティ対策はいつの時代もコスト対効果が問われてきました。ただ企業として思い切り「攻め」ができる環境づくりをするには、「守り」の投資も真剣に考える必要性が増しています。これはまさしく最近日本政府が提唱している「危機管理投資」そのものであり、経営上の重要課題でもあります。
災害大国日本においては、天災への備えも欠かせません。私たちがそれを痛感したのは、2011年3月の東日本大震災の経験です。国内観測史上最大となるマグニチュード9.0の地震が発生し、KDDIの通信設備も大きな被害を受けました。お客さまからは「通信がつながらず家族の安否が確認できない」「正しい情報がリアルタイムに入ってこない」といった声を多くいただき、通信が果たす社会的役割の重さを改めて実感しました。この経験から「有事を想定外ではなく、想定内にしておかなければならない」との思いが強くなりました。災害対策を一層強化し、日頃からの訓練や多様なケースを想定した備えを重ねてきたのです。
こうして積み重ねた努力は、2024年1月の能登半島地震において発揮されました。KDDIはStarlink約350台を活用し、総務省やDMATと連携して、被災状況の迅速な把握や医療・救援活動を支える通信環境の構築を行いました。現地で初めて通信が回復した際には、住民の方が遠方に住むご家族とビデオ通話で再びつながることができ、その喜びの表情に私たちも元気をいただきました。
能登半島地震以降、BCP (事業継続計画) 強化の波は、インフラを担う私たちだけでなく、お客さま企業全体に広がっています。「Starlink Business」契約数が7.6倍、数千回線規模に伸長したことも、関心の高まりの表れだと感じています。こうした取り組みは、コストではなく、競争力維持のための「未来への投資」と言えるのではないでしょうか。
有事の備えが平時にも力を発揮する事例として、石川県で進めているドローンポートの常設を紹介します。石川県内の4か所にドローンポートを設置しました。自動で離発着・充電が可能で、遠隔地から24時間リモートでの運航が可能となることで、平時は道路やトンネルの点検、3D測量などに活用し、日常業務の効率化に役立てています。一方、災害発生時にはドローンが即座に被災地へ飛び、被害状況の把握や自治体との連携に役立ちます。平時の運用で培ったノウハウが有事にもそのまま生かされるのです。
災害時には、普段から使いこなしているものしか活用できない――平時と有事の双方でいつでも稼働できる状態を維持することが重要だと考えています。日常的な活用を通じて運用力を磨き、いざという場面で確実に力を発揮できる基盤づくりを進めていきます。
これまで私たちは、常に新たなテクノロジーと向き合い、影を光へ変えてお客さまに届けてきました。新しい技術が登場するたびに、その技術が持つ不完全さと向き合い、影を光へ変えて価値を創出する。この循環の歴史こそが、KDDIの変革の源泉だと考えています。未来への投資には、攻めだけでなく守りも欠かせません。守りが攻めの基盤となり、未来の価値創造を加速する原動力となるのです。
私たちの「つなぐチカラ」によって、お客さま企業の事業を脅威や影から確実に守り、未来を照らす灯となることを、確固たる信念をもってお約束いたします。
これまでも、これからも。技術力と現場力を武器に、その時代にふさわしい変革に挑み続けてまいります。どうぞご期待下さい。