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コンピテンシーとは、「ハイパフォーマー (優れた成果を生み出す人)」に共通してみられる行動特性です。この行動特性を人事評価や採用基準に取り入れることで、組織全体のパフォーマンス向上が期待できます。
一般的に企業における人事評価では、その人が身につけている知識や技能、そこから生まれる業務上の成果が重んじられます。一方、コンピテンシーに基づく評価では、目に見える能力だけでなく、優れた成果を生み出す原動力となる価値観や思考が評価の対象です。コンピテンシーは、知識や技能とは違い、個人の先天的な能力も含まれます。ゆえに、従来の研修やトレーニングでは身につけることができません。その結果、企業の人事評価においてコンピテンシーの価値がますます注目を集めています。
コンピテンシーは、もともと「資格」や「能力」を意味する言葉ですが、人事評価におけるコンピテンシーという考え方の起源は、1970年代にハーバード大学の心理学者デイビッド・C・マクレランド教授らが行った研究にあります。このグループは「外交官を採用する際のテストの成績と配属後の業績が一致しない」という国務省からの相談を受け、調査を行いました。結果としては、テストの成績や学歴と配属後の業績には明確な相関関係が認められなかった一方で、高い業績を達成する人には共通した考え方や行動特性があることが明らかになり、これが「コンピテンシー」と呼ばれるようになりました。
その後、1980年代から1990年代にかけて米国の企業を中心にコンピテンシーに基づく人事評価が取り入れられるようになり、採用や人材育成の指標の役割を果たしながら浸透していきます。日本では年功序列制度の見直しの一環で、バブル崩壊後の1990年代に成果主義の評価基準として、コンピテンシーを導入する企業が増加しました。
近年は労働人口の減少やグローバル競争の激化により、限られた人材で高い成果を上げることが求められています。
こうした状況を受けて、求職者の潜在能力を見落とさないための手法として、コンピテンシーが改めて注目を浴びているのです。
スキルとは、特定の分野の業務を遂行するために必要な専門知識や技能です。学習やトレーニングなどを通じて習得することができ、プログラミング、簿記、外国語などがそれに該当します。スキルは資格の有無など、具体的な指標で測定できる点が特徴です。
一方のコンピテンシーは、スキルや資格そのものではなく、それをいかにして成果につなげていくかという行動特性が重視され、その人の価値観や思考も含めて、総合的に評価されます。
アビリティはスキルと意味が重なる部分がありますが、スキルが特定の分野の専門知識や技能を指すのに対して、アビリティは仕事に取り組む姿勢などを含めた総合的な能力を意味する言葉として用いられます。
例えば、分析能力・コミュニケーション能力などです。
コンピテンシーとの違いは、アビリティは「何ができるか」という能力に焦点が当てられますが、コンピテンシーは前述のとおり「能力を活かして、どのように成果につなげるか」という行動特性に焦点が当てられる点が大きな違いです。
コア・コンピタンスとは、他社が容易に真似することのできない企業独自の強みや中核となる能力を指します。
例を挙げると、他社が真似できない独自のデザインを備えた製品を開発し、市場で高く評価された場合、それがコア・コンピタンスとみなされます。企業はコア・コンピタンスを高めながら競争力のある製品を開発し、新たな市場へ積極的に参入するなどして、持続的な成長を実現することができます。
ケイパビリティは、ビジネスの中で培われた組織的な能力や強みを指します。
例としては、小売業界において独自の物流ネットワークを構築し、効率的かつ正確な商品配送を実現する能力などがケイパビリティです。他社との差別化や顧客満足度の向上を可能にするケイパビリティは、競争力を維持するための土台となります。
コンピテンシーに基づく評価では、具体的な評価項目の設定が必要ですが、統一されたフォーマットは存在しません。一般的に知られているモデルとして、さまざまな業種や職種を横断してコンピテンシーを体系化した「コンピテンシー・ディクショナリー」 (注) があります。このモデルは、前述のマクレランド教授の弟子であるスペンサー夫妻が1993年に提唱したもので、コンピテンシーの評価項目が6つの領域に分類されています。これらは企業が独自の評価項目を設定する際の参考となります。
コンピテンシー | コンピテンシーの定義 |
---|---|
達成・行動 | 達成思考/秩序・品質・正確性への関心/イニシアチブ/情報収集 |
援助・対人支援 | 対人理解/顧客支援志向 |
インパクト・対人影響力 | インパクト・影響力/組織感覚/関係構築 |
管理領域 | 他者育成/指導/チームワークと協力/チームリーダーシップ |
知的領域 | 分析的志向/概念的志向/技術的・専門職的・管理的専門性 |
個人の効果性 | 自己管理/自信/柔軟性/組織コミットメント |
※ 出所: Spencer & Spencer (1993)
コンピテンシーは社員の行動特性の客観的な評価、適切な配置、人材育成など、人事領域で幅広く導入されています。
主な活用シーンは、「人事評価」「採用活動」「人材育成」の3つです。
コンピテンシーは、人事評価の精度を高めるために広く導入されるようになっています。業務上の成果のみが重視されていた従来の人事評価とは異なり、コンピテンシー評価では、成果に至るまでの考え方や価値観などの行動特性も評価の対象となります。
具体的には、営業職では「顧客のニーズを把握する力」「信頼関係を構築するスキル」、エンジニア職では「技術的課題への対応力」「問題解決能力」などが評価基準として設定されます。このような基準を明確に示すことで社員の共通理解が生まれ、評価制度の客観性や公平性が保たれると同時に、組織全体の成長も促されます。
コンピテンシーは、採用活動で自社に適した人材を見極めるための基準としても活用されています。自社のハイパフォーマーに共通する行動特性に基づいて評価項目を作成することで、応募者の審査に活用できます。
例えば、リーダーシップを求める場合は「どのようなチームをまとめたことがあるか」といった経験を問うほか、「チームをまとめる際に重視することは」などの質問を加えると効果的です。その人物の潜在的な能力に関する質問を加えることで、価値観や倫理観などを判断する材料となり、より適切な人材の見極めが可能になります。
人材の計画的な育成においても、コンピテンシーは大きな意味を持っています。営業部門のハイパフォーマーにインタビューを行い、コンピテンシーの評価項目を作成する場合、これを人材育成計画に組み込むことで、営業部門の若手社員は「自分はどのような能力を伸ばすべきか」を具体的に把握することができます。
また、コンピテンシーを人材育成に活用することで、組織内の人材配置が最適化され、組織力を高めていくことが可能です。
人事評価の基準としてコンピテンシーを導入する主なメリットとしては、次の3つが挙げられます。
まず、業務効率と生産性の向上が期待できます。コンピテンシーを掘り下げることによって、高い成果を上げるために必要な行動特性が明確になります。この基準を全社に浸透させると、業務の効率化、生産性の向上が促されます。
また、人事評価の透明性の確保が見込めます。コンピテンシーに基づいて評価基準を統一することで、評価者の主観による曖昧さが解消され、評価の一貫性や信頼性の向上が可能になります。これに伴い、社員の納得感も高まり、評価の結果を前向きに捉えることができます。
さらに、組織の成長に貢献する優れた人材の獲得が挙げられます。コンピテンシーを採用基準に導入すれば、新たな人材に求める行動特性が具体化され、採用活動の成果を高めていくことができます。
コンピテンシー評価を導入する上で課題、デメリットもあります。主に以下の2つです。
企業が求める人材の行動特性は業種や職種によって異なるため、評価項目の具体化は思ったよりも難しく、外部の専門家の協力が必要になることがあります。そのため、コンピテンシーモデルの策定には多くの時間やコストが必要になることが珍しくありません。
また、行動特性の評価は定性的な要素が多く、評価者の主観やバイアスが影響することがあります。評価基準の曖昧さで公平性が損なわれると、社員のモチベーションの低下や不信感につながるリスクがあることもデメリットといえます。
コンピテンシー評価を導入する手順は、次のとおりです。
コンピテンシー評価を適切な手順で導入することにより、評価プロセスが明確になり、組織全体の採用活動、人材育成における方針の一貫性を保つことができます。それぞれのステップについてみていきます。
ハイパフォーマーから行動特性のヒアリングを行う前に「高業績」の定義づけが必要です。職種や役割ごとに業務を行う現場が理解しやすい明確な定義づけを行いましょう。
その後のヒアリングでは、成果につながった行動だけでなく、「その行動をとった背景」や「どのような考え方や価値観に基づいて判断したのか」といった理由まで深く掘り下げます。
ハイパフォーマーからのヒアリング結果を基に、評価基準となるコンピテンシーモデルを策定します。このモデルには、「理想型モデル」「実在型モデル」「ハイブリッド型モデル」の3つのタイプがあります。
このように、コンピテンシーモデルにはそれぞれメリットとデメリットがあるため、最終的な目的や成長の段階に応じて適切なモデルを選択することが重要です。
コンピテンシーモデルの評価項目には、統一されたフォーマットはありません。企業の経営方針やビジョンと合致し、実際の業務で役立つ独自の評価項目を作成することが大切です。優れた社員からのヒアリング内容を基に、社員の評価や育成、採用に必要な項目を絞り込みましょう。
具体例や参考資料が必要な場合は、前述の「コンピテンシー・ディクショナリー」が役立ちます。作成時には、全社共通の項目と、職種や役割ごとの項目を区別することで、現場の実態に即したモデルを作成できます。
評価項目が決まったら、項目ごとの評価レベルも設定する必要があります。参考となるのが、以下の5段階のレベル分けです。
レベル1 | 受動的な行動 | 上司の指示があれば、業務を行うことができる あくまで受け身の段階であり、自発性は見られない |
レベル2 | 通常の行動 | 決められた業務であれば、上司の指示がなくても行うことができる ただし、決められた業務の範囲にとどまる |
レベル3 | 能動的な行動 | 自ら考え、明確な理由に基づいて主体的に行動できる |
レベル4 | 創造的な行動 | 現状の業務を改善するためのアイデアを提案することができる |
レベル5 | パラダイムを転換する行動 | リーダーシップを発揮し、新たな発想とチームワークで現状の業務を改善することができる |
この5段階の評価で、社員の成長プロセスを正確に把握し、適切な育成や評価の仕組みを構築することができます。
コンピテンシー評価を導入する際は、「適切な評価項目の設定」「定期的な見直しと改善」「過度な依存に陥らない」の3点に注意が必要です。
高すぎる理想や再現できない行動特性などの評価項目を掲げても、適切な人材の採用や育成にはつながりません。企業が求める理想の人材像を明確化することは重要ですが、理想が高すぎて現実的でない場合、社員の理解が得られず、行動にも移せなくなってしまいます。
社員の行動を促すためには、職種や役割ごとに現実的な評価項目を設定しましょう。これにより、社員は自分が何をすべきかがイメージしやすくなり、具体的な行動へつながっていきます。
ビジネスを取り巻く市場環境は常に変化しており、経営戦略にも柔軟な対応が求められます。それに伴い、社員に求めるコンピテンシーも変化します。自社のコンピテンシーモデルを市場ニーズに適合させるには、定期的な見直しと改善が必要です。
これによりモデルの陳腐化を防ぎ、長期的な実効性を確保することができます。実際の見直しに際しては、現場の声を反映させることも大切です。社員がしっかり納得すれば、さらなる効果が期待できます。
コンピテンシーモデルに過度に依存すると、社員一人ひとりの強みや個性の否定につながる可能性もあるため注意が必要です。
職種や役割に応じて評価項目の焦点を絞り、柔軟に運用しましょう。具体的で達成可能な目標を設定することが、組織全体のパフォーマンス向上に結びつきます。
コンピテンシーは、ハイパフォーマーに共通してみられる行動特性です。優秀な人材へのヒアリングを基にコンピテンシーモデルを作成することで、社員一人ひとりの強みや課題を可視化でき、採用活動や人材育成の効果的な指標として活用できます。
コンピテンシー評価の活用で、個々の社員の成長を支援し、組織の中で適材適所の配置を行うことにより、業務の効率化や生産性の向上が期待できます。社員一人ひとりの潜在能力を最大限に引き出し、組織全体の成果へとつなげていきましょう。