ミリ波レーダーは、「やまびこ」のように反射した電波を利用して動作します。アンテナから電波を出すと、物体にぶつかって跳ね返ってきます。その戻ってくるタイミングや変化を調べることで、「どのくらい離れているか (距離)」「どちらにどのくらい動いているか (速度)」「どの方向にあるか (角度)」を知ることができます。
使われる信号は「チャープ信号 (注7)」と呼ばれ、時間とともに音階が少しずつ上がっていく笛の音のように、周波数が変化する仕組みになっています。戻ってきた信号と比べることで、対象物までの距離を高い精度で測定できます。また、動く物体からの反射波は、救急車のサイレンが近づくと高く、遠ざかると低く聞こえるのと同じドップラー効果によって変化するため、その違いから速度を算出できます。
さらに、複数のアンテナを使えば、電波がどの方向から戻ってきたのかもわかるため、三次元的に「距離・速度・方向」を同時に把握できます。しかも光のように暗さや天候に左右されにくいので、昼夜や雨の日でも安定して検知できるのが大きな特長です。
まず距離は、送信信号と反射信号の周波数差をもとに算出します。周波数の差が大きいほど、対象が遠くにあることを意味します。また、チャープ信号の帯域を広く取るほど、近い距離にある複数の物体も細かく分離して検出できるようになります。言い換えれば、「より高解像度のレーダー画像」を得られます。
速度の推定には、時間方向で信号を解析する「ドップラー処理」を用います。物体がこちらに近づいているか離れているかで反射波の周波数がわずかに変化するため、その変化量から移動速度を求めます。観測時間を長くすればするほど、速度の分解能は高まり、わずかな速度差も識別可能になります。
さらに、複数アンテナを使って信号の到来角 (電波が特定の点に到達するときの入射角) を比較することで、同じ距離や速度にある物体でも角度の違いによって見分けることができます。これにより、複数ターゲットが近接している場合でも、高精度に識別することが可能になります。
ミリ波レーダーは、FMCW方式 (周波数を連続的に変化させて対象を測定する方法) により、距離・速度・角度を同時に計測できるのが特長です。シンセサイザーで生成したチャープ信号を送信し、対象から返ってきた反射波を受信します。送信波と受信波の周波数差から距離を算出し、さらにドップラー効果を解析して対象の移動速度を求めます。複数のアンテナを組み合わせれば信号の到来方向も推定でき、三次元的な位置情報を得ることが可能です。
これらの測定結果は、そのままでは点の集まりにすぎません。そこで「検出 → グルーピング → 追跡 → 識別」という流れで処理を行い、物体判別につなげます。まず、受信信号からノイズを除去し目的の信号を検出 (CFAR処理) することで、実際の物体に対応する信号を取り出します。次に、クラスタリング (近接する点をまとめる処理) でデータを整理し、カルマンフィルター (観測データから動きを予測して追跡する手法) を用いたトラッキングで同一物体を時間的に追跡します。最後に、機械学習により「歩行者」「自転車」「車両」といったカテゴリへ分類することで、夜間や屋外の複雑な環境でも安定した検知・識別が可能になります。