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ミリ波レーダーの原理や構造をわかりやすく解説

ミリ波レーダーの原理や構造をわかりやすく解説

2025 9/30
ミリ波レーダーは30~300GHzの電波を使い、対象までの距離・速度・角度を同時に推定します。霧や雨、暗所の影響を受けにくいため、自動車の自動運転や先進運転支援 (ADAS)、産業機械、ドローン、スマートホームまで用途が広がっています。本記事では、周波数帯と割り当て、ほかのセンサーとの違い、主流のFMCW (周波数変調連続波) 方式の仕組み、特長と実用上の課題、代表的な活用事例を順に解説します。

※ 記事制作時の情報です。

1.ミリ波レーダーとは

ミリ波レーダーとはのイメージ画像

ミリレーダーとは、波長1~10mm、周波数30~300GHzの電波を使って、対象までの「距離」「速度」「角度」を同時測定できる技術です。

波長が短いのでアンテナを小さく作りやすく、さらに数GHz規模の広い周波数帯利用できるため、より高い精度物体識別できます。

ここでいう「分解能」とは、システムがどれだけ細かい違いを見分けられるかを示す指標で、特に近くにある物体をはっきり区別する力を意味します。分解能が高いほど、対象細部まで把握できるようになります。

利用される方式としては、FMCW (周波数変調連続波) が主流です。これは電波周波数連続的変化させて発信し、その反射利用して対象までの距離速度を求める仕組みです。さらに、MIMO (マルチ入力・マルチ出力アンテナ)  (注1) デジタルビームフォーミング (電波特定方向集中させる制御技術) と組み合わせることで、複数物体同時安定して検出できます。また、自動運転 (注2) 向けに使用されるカメラやLiDAR (レーザーを使った距離測定技術) と比べ、雨・霧・暗所といった環境影響を受けにくいため、屋外でも安定した検知性能発揮します。

一方で、さらに高い周波数であるサブミリ波/テラヘルツ波 (300GHz以上) を使えば、分解能向上しますが、「材料損失 (物体通過する際の減衰)」や「大気吸収 (空気中分子水蒸気による減衰)」が増えるため、到達距離実装には工夫必要です。

1-1. ミリ波レーダーの周波数帯域

1-2. ほかのセンサーとの比較

ミリレーダー、LiDAR、カメラ特性を、天候や光の影響という観点整理します。

センサー 主に得られる情報 強み 留意点 悪天候・夜間
ミリ波レーダー 距離・速度・角度 霧や雨、暗い場所でも安定して検知できます。ドップラー処理 (注3) で速度を直接計測でき、MIMOで分解能を引き上げられます。プライバシーに配慮しやすい点も利点に挙げられます。 角度分解能 (センサーが異なる方向にある物体をどれだけ細かく区別できるかを示す指標) は帯域と素子数に依存します。金属周辺ではマルチパス (注4) が生じやすく、ゴースト (注5) 抑制が必要になります。 強い
LiDAR 高密度3D点群 形状を高精細に把握でき、絶対距離 (注6) を直接取得できます。地図作成や輪郭抽出に強みがあります。 霧や降雨、強い日射で性能が低下します。機構部の耐久性やコストに配慮が必要です。 中~弱い
カメラ 画像 (色・テクスチャ) 情報量が多く、低コストで導入できます。学習済みモデルを活用して識別・ラベリングを行いやすくなります。 照明の条件に強く依存します。距離は原理的に間接推定になります。プライバシー配慮も求められます。 弱い
  • 注3) 物体反射電波周波数変化解析し、物体速度測定する技術
  • 注4) 電波信号受信側に届くまでに、建物地面金属などに反射して複数経路を通る現象
  • 注5) 光が反射して生じる輪状多角形の光の像。
  • 注6) 2点の物理的距離のこと。ここではレーザー光を対象物照射し、その反射光が戻ってくるまでの時間計測し、正確距離直接測定すること。

2.ミリ波レーダーの動作原理

ミリレーダーは、「やまびこ」のように反射した電波利用して動作します。アンテナから電波を出すと、物体にぶつかって跳ね返ってきます。その戻ってくるタイミング変化を調べることで、「どのくらい離れているか (距離)」「どちらにどのくらい動いているか (速度)」「どの方向にあるか (角度)」を知ることができます。

使われる信号は「チャープ信号 (注7)」と呼ばれ、時間とともに音階が少しずつ上がっていく笛の音のように、周波数変化する仕組みになっています。戻ってきた信号と比べることで、対象物までの距離を高い精度測定できます。また、動く物体からの反射波は、救急車サイレンが近づくと高く、遠ざかると低く聞こえるのと同じドップラー効果によって変化するため、その違いから速度算出できます。

さらに、複数アンテナを使えば、電波がどの方向から戻ってきたのかもわかるため、三次元的に「距離速度方向」を同時把握できます。しかも光のように暗さや天候左右されにくいので、昼夜や雨の日でも安定して検知できるのが大きな特長です。

  • 注7) 時間とともに周波数変化する信号を指す。ミリレーダーでは、一定時間周波数線形変化する信号を用いて、対象物までの距離速度高精度測定する。

2-1. 距離と速度の測定

まず距離は、送信信号反射信号周波数差をもとに算出します。周波数の差が大きいほど、対象が遠くにあることを意味します。また、チャープ信号帯域を広く取るほど、近い距離にある複数物体も細かく分離して検出できるようになります。言い換えれば、「より高解像度レーダー画像」を得られます。

速度推定には、時間方向信号解析する「ドップラー処理」を用います。物体がこちらに近づいているか離れているかで反射波周波数がわずかに変化するため、その変化量から移動速度を求めます。観測時間を長くすればするほど、速度分解能は高まり、わずかな速度差識別可能になります。

さらに、複数アンテナを使って信号到来角 (電波特定の点に到達するときの入射角) を比較することで、同じ距離速度にある物体でも角度の違いによって見分けることができます。これにより、複数ターゲット近接している場合でも、高精度識別することが可能になります。

2-2. 物体判別の技術

ミリレーダーは、FMCW方式 (周波数連続的変化させて対象測定する方法) により、距離速度角度同時計測できるのが特長です。シンセサイザー生成したチャープ信号送信し、対象から返ってきた反射波受信します。送信波受信波周波数差から距離算出し、さらにドップラー効果解析して対象移動速度を求めます。複数アンテナを組み合わせれば信号到来方向推定でき、三次元的位置情報を得ることが可能です。

これらの測定結果は、そのままでは点の集まりにすぎません。そこで「検出グルーピング追跡識別」という流れで処理を行い、物体判別につなげます。まず、受信信号からノイズ除去目的信号検出 (CFAR処理) することで、実際物体対応する信号を取り出します。次に、クラスタリング (近接する点をまとめる処理) でデータ整理し、カルマンフィルター (観測データから動きを予測して追跡する手法) を用いたトラッキング同一物体時間的追跡します。最後に、機械学習により「歩行者」「自転車」「車両」といったカテゴリ分類することで、夜間屋外複雑環境でも安定した検知識別可能になります。

3.ミリ波レーダーの特長

ミリレーダーは、「高精度センシング能力」「悪環境への強さ」「小型省電力化のしやすさ」「広帯域由来する高い分解能」という四つの特長同時に備えています。車載産業ドローンスマートビルなど用途が異なる現場でも、一つの技術基盤横断的活用できる点が大きな魅力です。近年半導体集積アルゴリズム進歩によって性能コストバランス向上し、実装ハードルが下がっています。

ミリ波レーダーの特長のイメージ画像

3-1. 高精度で「距離・速度・角度」を同時取得できる

FMCW方式とMIMO処理の組み合わせにより、高精度距離速度角度同時推定できます。FMCW方式距離速度測定し、MIMO処理では複数アンテナ同時データ送受信することから、電波方向距離測定精度向上します。空間分解能改善されることで、通信性能信号処理精度大幅向上し、高精度測角可能となります。

3-2. 悪環境・夜間に強く、屋外で安定して動作する

次に環境耐性では、ミリ波は霧や雨、粉じん、逆光夜間といった光学センサー苦手とする条件でも検知性能維持します。可視光近赤外線に比べて散乱影響を受けにくく、屋外連続監視夜間運用に強みがあります。画像を扱わないためプライバシー配慮容易で、在室検知人流計測のような用途にも適しています。現場ではレーダー確実検出し、必要に応じてカメラやLiDARで識別可視化する構成を取ることで、天候照度変動しても安定性精度両立できます。

3-3. 小型・省電力・一体化が進み、設計の自由度が高い

実装面の強みとしては、波長が短いことからアンテナとRF回路 (無線通信などで使用される高周波 (Radio Frequency) の信号を扱う電子回路) を小型化しやすく、モジュール全体を省スペースにまとめられます。近年はRF、A/D (注8)デジタル・シグナル・プロセッサ (注9) など同一パッケージに収めた製品普及し、アンテナ素子半導体チップパッケージ内に統合する技術である「アンテナ一体型パッケージ (Antenna in Package、AiP)」の採用配線筐体設計簡素化できます。これにより電力効率のよい常時稼働可能になり、バッテリー駆動ドローンロボット壁面天井設置ビル設備など、設置自由度の高いシナリオ適合します。設置台数最適化死角最小化も行いやすく、ライフサイクルコストの面でも優位です。

  • 注8) アナログ-デジタル変換器
  • 注9) デジタル信号処理特化したマイクロプロセッサ

3-4. 広帯域を確保しやすく、高い分解能を実現しやすい

最後分解能拡張性について、ミリ波は広い帯域確保しやすく、距離角度分解能を高めやすい特性を持ちます。特に77~81GHz帯では数GHz級の帯域活用した高分解能設計一般化しており、近接した物体分離や小さな動きの検知効果発揮します。MIMOの採用測角精度をさらに向上させることができ、ソフトウェア更新アルゴリズム容易進化させられるため、拡張可能性も大きいのが特徴です。今後は5Gミリ波通信 (注10)エッジAI (注11) との連携が進み、通信センシング統合した運用地図必要としない自律走行設備予兆保全など、応用範囲のさらなる拡大期待されます。

  • 注10) 高周波数帯 (24GHz以上) を利用し、超高速データ転送低遅延実現する技術大容量データリアルタイム通信可能で、自動運転やIoTなどの先進的アプリケーション対応可能
  • 注11) AIを直接搭載したネットワーク端末機器 (エッジデバイス) のことて、端末側データ処理をするため処理速度が速い。

4.ミリ波レーダーの活用事例

ミリ波レーダー活用事例のイメージ画像

ミリレーダーは、屋外での安定検知小型省電力という特性を活かし、自動車産業機械ドローンに加えて、IoTやAIと連携するサービス用途を広げています。ここでは代表的三分野を少し掘り下げて紹介します。

4-1. 自動車 (自動運転・先進運転支援システム)

前方監視死角検知後側方衝突回避、ACC (自動追従(注12)、AEB (自動緊急ブレーキ) に広く用いられています。77~81GHzの広帯域を使うと近接する車両歩行者自転車を細かく分離でき、合流時交差点右折時見通支援でも効果発揮します。車両周囲の360度レーダーカメラ/LiDARのセンサーフュージョン (注13) を行い、AIで識別精度を高めることで、夜間降雨時でも安定した認識実現します。近距離駐車支援自動バレーパーキング (車が自動駐車スペースを探し、駐車するシステム) でも、超音波と組み合わせて低速域安全性を高められます。

  • 注12) 車両前方の車との距離センサー測定し、自動速度調整する機能
  • 注13) 定基準を満たす複数センサーから得た情報統合し、自動目的に応じた情報処理を行うこと。

4-2. 産業機械・スマートビルIoT

工場では自動搬送車 (AGV) や自律移動ロボット (AMR)、協働ロボット周辺安全監視搬送ラインの人の立入検知屋外ヤード入出庫監視活用します。粉じんや照度変化に強いため、光学センサーでは難しい現場でも安定した運用ができます。ビル店舗では60GHz帯による在室検知人数推定を使い、暖房換気空調システム照明需要連動制御して省エネを図ります。さらに、エレベーター自動ドア誤開防止個人情報を扱わない匿名トラッキングスマートリテール (注14) において顧客が棚の前に滞在する時間分析する機能など、プライバシー配慮が求められるシーンでも導入しやすい点が評価されています。

  • 注14) AIやIoT、ビッグデータなど最新テクノロジー活用して、小売業効率顧客体験向上させる次世代小売形態のこと。

4-3. ドローン (点検・物流・警備)

ドローン (無人航空機) は、障害物回避高度維持、狭い場所での自律飛行有効です。霧や薄暗さの影響を受けにくいため、夜間トンネル・橋梁・プラント内部近接点検でも信頼性確保できます。通信・GNSS (全球測位衛星システム注15)・ビジョンカメラ併用すると位置誤差修正できます。AIがレーダーから得られる反射パターン学習することで、細いワイヤーや枝の検出率を高められます。ドローンステーション連携した自動離発着遠隔運航管理巡回警備災害時捜索支援倉庫内ピッキング支援など、運用自動化省人化にも直結します。

KDDIのドローン取り組みの詳細以下をご覧ください。

5.実用上の課題と対策

導入運用では「ハード設計」「信号処理」「規制適合」「量産品質」の四つの観点でつまずきやすいポイントが生まれます。以下では主な課題と、現実的に取り得る対策をそれぞれ整理します。

  • 角度分解能ハード規模トレードオフ
    課題: 高い角度分解能を得るには、多くのアンテナ素子必要ですが、ハードウェア大規模化します。
    対策: MIMOや合成開口レーダー (注16)スパースアレイ (注17)デジタルビームフォーミング技術などを利用します。これにより、小さなアンテナでも広範囲カバーし、仮想的アンテナ素子の数を増やして分解能を高めることができます。

  • マルチパス金属環境での誤反射 (ゴースト)
    課題: 電波反射して誤認識を引き起こすことがあります
    対策: CFARアルゴリズムクラスタリングトラッキングを組み合わせて異常値抑制し、時系列データ整合性を保つことで誤検知を減らします。

  • ほかのシステムとの共存規制適合 (特に60GHz帯)
    課題: ほかのシステムとの電波干渉を避ける必要があります。
    対策: 出力占有帯域デューティー比など地域規制遵守し、使用する周波数帯効率的管理する「チャネル計画」を立てたり、ほかの信号検出して干渉を避ける「リッスン機能」を活用したりして、電波干渉回避します。

  • 熱設計校正量産ばらつき
    アンテナ一体型パッケージ使用し、温度変化による性能のずれを補正する仕組みを導入して、製造工程位相振幅調整するプロセスを組み込むことで、安定した性能確保します。
  • 注16) 航空機衛星搭載され、移動しながら地表観測するレーダー技術高解像度地形画像を得るために、小さなアンテナ広範囲カバーし、合成開口技術により詳細情報取得
  • 注17) アンテナ素子間隔を空けて配置し、少ない素子広範囲視野カバーする技術レーダー通信システムでの効率的信号処理可能

6.まとめ

ミリレーダーは、環境耐性高分解能両立し、距離速度角度同時取得できるセンサーです。自動車産業・ビル・ドローンなどに広がり、都市部密集地帯での超高速通信低遅延通信実現する「5G」などの通信技術やAI解析との組み合わせで、より安全かつ効率的システム設計実現します。導入時は、目的距離範囲環境条件規制を踏まえて、帯域・アンテナ構成・アルゴリズム最適化させましょう。

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KDDIは、ドローン活用した業務効率化課題解決を、ドローン機種選定から運用支援までトータルサポートします。ドローン自律飛行各種法規制への対応といった、専門知識を要する領域から、インフラ・システム利用方法レクチャーまで、一貫したサポート提供しています。ドローン導入検討中の方はKDDIへご相談ください。

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