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LSTMの仕組みと使用例を徹底解説|わかりやすい入門ガイド

LSTMの仕組みと使用例を徹底解説|わかりやすい入門ガイド

2025 8/22
「LSTM (Long Short-Term Memory、長・短期記憶)」とは、AIが自然言語や音声を処理する際に時系列データを扱うために作られた仕組みです。音声認識や機械翻訳、チャットボットなど幅広い分野で活用されてきました。
LSTMは「過去の情報を長く記憶できる」という特性から、需要予測や異常検知など時系列データの分析で注目されています。
本記事では、LSTMの仕組みからRNNとの違い、活用事例、最新技術との関係までをわかりやすく解説します。

※ 記事制作時の情報です。

1.LSTMとは

LSTMとは、時間の流れを含むデータ処理するために開発されたニューラルネットワーク (人間の脳の働きをモデルにした機械学習手法) の一種で、音声認識機械翻訳などに欠かせない技術です。

従来ニューラルネットワークでは、古い情報保持し続けることが難しく、時系列データ処理弱点がありました。時系列データとは、時間経過に沿って記録された連続的データで「センサーログ」「株価チャート」「ユーザー行動履歴」などが代表例です。

LSTMとは概要のイメージ画像

LSTMはこの問題解消し、「必要情報だけを長く記憶する」という仕組みを備えている点が特徴です。

例えば、翻訳タスクにおいて前半文脈維持したまま後半翻訳を行うことが可能となり、主語一貫した語調など全体整合性を保ちながら、違和感のない文章生成します。また、需要予測株価分析など、時間推移が求められる分野でも活用が進んでいます。

1-1. LSTMが注目される理由


LSTMが注目されているのは、時系列データへの高い適応力があるためです。

時系列データは、前後の流れや過去との関係加味して解析する必要があります。LSTMは「情報の流れを保ちつつ長期的依存関係学習できる」ことから、ビジネス現場評価されています。

例えば、製造業異常検知金融相場分析通信利用予測などで活用が進んでいます。従来手法では見逃されていた「わずかな変化の兆し」をLSTMで捉えることにより、現場での複雑判断や先を見越した行動支援できる点も、注目される理由の一つです。

2.LSTMの構造と特徴

LSTMの中核となるのが「セル状態 (Cell State)」と、3つの「ゲート (忘却入力出力)」です。これらの要素連携することで、重要情報長期的記憶しながら、必要情報のみを引き継げます。

要素 役割・特徴 数式 (概要)
セル状態
(Cell State)
長期記憶を保持 Ct=ft*ct-1+it*C̃t
忘却ゲート
(Forget Gate)
過去のセル状態から不要なものを削除 ft=σ(Wf・[ht-1,xt]+bf)
入力ゲート
(Input Gate)
セル状態に新たな情報をどれだけ追加するかを決定 it=σ(Wi・[ht-1,xt]+bi)
C̃t=tanh(Wc・[ht-1,xt]+bc)
出力ゲート
(Output Gate)
セル状態からどの情報を出力するかを決める ot=σ(Wo・[ht-1,xt]+bo)
ht=ot・tanh(Ct)
隠れ状態
(Hidden State)
どの情報を出力するかを決める ht=ot・tanh(Ct)

2-1. セルの状態を制御する3つのゲート

LSTMは「セル状態」と呼ばれる長期記憶情報の流れを保持し、以下の3つのゲートによって制御しています。

■ 2-1-1. 忘却ゲート

忘却ゲートのイメージ画像

忘却ゲートは、セル状態蓄積された過去情報のうち「どの情報を残し、どれを忘れるか」を判断する役割を持ちます。

入力データ直前出力をもとに、シグモイド関数 (入力された実数値を0~1の範囲変換する数学的関数) で0~1の値を出し、それに応じて記憶削除または維持します。これにより、LSTMは古くなった文脈関係の薄い情報効率的削除し、セル状態最適に保つことが可能です。

■ 2-1-2. 入力 (インプット) ゲート

入力(インプット)ゲートのイメージ画像

入力ゲートは、セル状態に「新たな情報をどれだけ記憶追加するか」を制御します。

まず、現在入力直前出力をもとに「記憶候補」 (新たに加えるべき内容) を作成し、シグモイド関数で得た重要度スコア (0~1の値) を掛け合わせ、必要情報だけをセル状態追加します。この仕組みによって、重要情報だけを新たに記憶し、過去現在バランスを保ちながらセル状態更新できます。

■ 2-1-3. 出力 (アウトプット) ゲート

出力 (アウトプット) ゲートのイメージ画像

出力ゲートは、更新されたセル状態の中から「どの情報出力するか」を選びます。

セル状態のすべてをそのまま出力するのではなく、必要情報に絞って取り出すため、次の層やタイムステップ効率よく情報を伝えることが可能です。出力されたデータ (隠れ状態) は、次の処理予測活用されます。

3.LSTMとRNNの違い

LSTMとRNNの違い のイメージ画像

LSTMは、RNN (Recurrent Neural Network、回帰型ニューラルネットワーク) の弱点克服したモデルであり、必要情報なら維持できるという「長期的依存関係を捉える力」に優れている点が大きな違いです。

RNNは、LSTMと同様時系列処理基礎となるモデルですが、後述する「勾配消失問題」により古い情報保持し続けるのが苦手という課題を抱えています。一方で、LSTMはセル状態と3つのゲート構造により重要情報長期間保持でき、精度の高い予測複雑文脈理解対応可能です。

両者の主な違いは以下のとおりです。

項目 RNN LSTM
記憶の持続力 短い 長い
勾配消失の影響 受けやすい ゲート構造により軽減
用途の広さ 短文や単純な時系列に有効 複雑な文脈、長期依存、高精度な予測に有効
構造の複雑さ 比較的シンプル やや複雑 (計算コストも高い)

3-1. 勾配消失問題の解決方法

LSTMは、学習時に古い情報が伝わらなくなる「勾配消失問題」を防ぐ構造を持っています。

勾配消失とは、ニューラルネットワーク学習時誤差を伝える信号 (勾配) が小さくなりすぎて、前の層の重みがうまく更新されなくなることで、過去情報学習しにくくなる現象です。

LSTMはセル状態という情報の通り道を設け、勾配がほとんど劣化しない構造を持ち、過去情報も長く保持可能です。また、3つのゲート構造により、必要情報を残しつつ、誤差記憶適切コントロールできます。

4.LSTMの実装方法

本章ではPythonの以下ライブラリを使ってLSTMを実装する手順紹介します。

  • TensorFlow (Keras) を利用した実装方法
  • PyTorchを利用した実装方法

4-1. TensorFlow (Keras) を利用した実装方法

以下は、過去数値から未来予測する (時系列予測) をテーマにしたサンプルのため、ぜひ参考にしてください。

# 1.ライブラリのインポート

import numpy as np
import tensorflow as tf
from tensorflow.keras.models import Sequential     # 順次モデル構築用
from tensorflow.keras.layers import LSTM, Dense    # LSTM層と出力層

# 2.データを準備する

# 100個のサンプル、各サンプルは10ステップの時系列、1つの特徴量を持つ
X = np.random.rand(100, 10, 1)    # 入力データ: 形状 (サンプル数, 時系列の長さ, 特徴量数)
y = np.random.rand(100, 1)        # 教師データ (ターゲット): 1つの出力を予測

# 3.LSTMモデルを構築する

model = Sequential()  # 順番に層を積み上げていくモデル

# LSTMレイヤーを追加 (50ユニット=50個の記憶セル)
# input_shape=(10, 1): 1サンプル当たり10ステップ、各ステップで1つの値 (特徴量)
model.add(LSTM(50, input_shape=(10, 1)))

# 出力層を追加 (Dense層=全結合)
# 今回は1つの値を予測するため、出力ユニットは1つ
model.add(Dense(1))

# モデルのコンパイル
# 損失関数: mse (平均二乗誤差)、最適化手法: adam (よく使われる最適化アルゴリズム)
model.compile(optimizer='adam', loss='mse')

# 4.学習を実行する

# エポック数: 20回、バッチサイズ: 16 (1回の更新に使うサンプル数)
model.fit(X, y, epochs=20, batch_size=16)

# 5.予測を実行する

# ここでは訓練に使ったXをそのまま入力して予測結果を得る
predictions = model.predict(X)

# 6.結果を表示する

#最初の5件のみ表示する
print(predictions[:5])

4-2. PyTorchを利用した実装方法

以下はPyTorchを用いて、時系列データ入力し、回帰予測 (連続値出力) を行った実装例です。

# 1.ライブラリのインポート

import torch
import torch.nn as nn
import torch.optim as optim
import numpy as np

# 2. ハイパーパラメータ

seq_length = 10   # 時系列の長さ
input_size = 1    # 特徴量の数
hidden_size = 50  # LSTMの隠れ状態ユニット数
output_size = 1   # 出力の次元 (回帰出力)
batch_size = 100  # バッチサイズ

# 3. ダミーデータの作成 (NumPy → Torch Tensorに変換)

X = np.random.rand(batch_size, seq_length, input_size).astype(np.float32)
y = np.random.rand(batch_size, output_size).astype(np.float32)

X_tensor = torch.from_numpy(X)
y_tensor = torch.from_numpy(y)

# 4. モデルの定義

class LSTMRegressor(nn.Module):
    def __init__(self, input_size, hidden_size, output_size):
        super(LSTMRegressor, self).__init__()
        self.lstm = nn.LSTM(input_size, hidden_size, batch_first=True)
        self.fc = nn.Linear(hidden_size, output_size)

    def forward(self, x):
        out, _ = self.lstm(x)               # LSTMの出力 (すべての時刻)
        out = out[:, -1, :]                 # 最後の時刻の出力だけ使う
        out = self.fc(out)                  # 全結合層で回帰値を出力
        return out

# モデルのインスタンス作成
model = LSTMRegressor(input_size, hidden_size, output_size)

# 5. 損失関数と最適化手法

criterion = nn.MSELoss()
optimizer = optim.Adam(model.parameters(), lr=0.001)

# 6. 学習ループ (例: 20エポック)

for epoch in range(20):
    model.train()
    optimizer.zero_grad()
    output = model(X_tensor)
    loss = criterion(output, y_tensor)
    loss.backward()
    optimizer.step()

    if (epoch + 1) % 5 == 0:
        print(f"Epoch [{epoch+1}/20], Loss: {loss.item():.4f}")

# 7. 予測と結果表示

model.eval()
predictions = model(X_tensor).detach().numpy()
print(predictions[:5])

5.LSTMの応用分野

LSTMの主な応用分野以下のとおりです。

分野 概要
自然言語処理 文の意味を理解する、翻訳・文章生成、感情分析などに利用
手書き文字・画像認識 手書きの文字や画像の変化を読み取り、デジタルデータに変換
異常検知 センサーやログなど異常な動きを検知
自動運転・交通制御 車両の動きや道路環境の変化を連続的に捉える
株価や資産の予測 株価予測をはじめ、投資の配分を考える
作物の収穫予測 作物の生育状況や気象変動をもとに、収穫時期や水やりのタイミングを予測
法律・契約分析 契約内容に対するリスクの可能性がある部分を検知

6.LSTMの活用事例

前述したようにLSTMは、多様分野実用化が進んでいます。具体的なLSTMの活用事例を3つ紹介します。

LSTMの活用事例のイメージ画像

6-1. Google: 翻訳における精度向上

Googleは2016年、従来ルールベース統計ベース翻訳システム廃止し、LSTMを活用した「Google Neural Machine Translation (GNMT)」を導入しました。

入力文文全体特徴として読み取り、その情報をもとに翻訳文一語ずつ生成する「エンコーダ・デコーダ構造」により、文脈加味した自然翻訳を行えるようになりました。その結果従来方式よりも60%以上精度向上報告されています。

6-2. Uber: 需要予測によるダイナミックプライシングの最適化

UberはLSTMを用いて、過去配車需要時間帯天候イベントなどのデータから将来需要予測しています。その予測に基づき、需要に応じてリアルタイム価格変動させるダイナミックプライシング実現しています。

その結果供給不足過剰供給回避でき、収益最大化顧客満足度向上両立しています。

6-3. Volvo: トラック整備の予測

Volvoでは、自社大型トラック整備保守作業をより効率的に行うため、LSTMを使った部品故障兆候事前検知する予測モデル開発に取り組んでいます。

トラック走行履歴センサー情報などの時系列データをLSTMモデル学習させることで、部品ごとの異常高精度予測可能となりました。その結果計画的整備によるダウンタイム削減寄与しています。

7.最新技術がもたらす可能性

最近研究では、LSTMと他の技術を組み合わせて、より高精度予測ができるようになりつつあります。例えばLSTMを強化した「xLSTM」は、長い文章意味をより正確理解し、複数処理同時実行できる点が特徴です。この改良によりチャットボット自然応答生成や、文章から感情を読み取る感情分析などの精度が大きく向上しています。

LSTMは20年以上前登場した技術ですが、今後も新たなアルゴリズムハードウェア進化とともに、多様課題解決貢献していくことが期待されます。

8.まとめ

LSTMは、RNNが抱えていた勾配消失問題克服し、「過去情報を長く保持しながら、不要情報は忘れる」という仕組みを有しています。

現在は、自然言語処理異常検知予測分野でLSTMの活用が進んでいます。今後最新技術との連携により、より多くの現場で「わかりやすい・柔軟実用的なAIモデル」として活用期待されている技術の一つです。

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