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※ 記事制作時の情報です。
LSTMとは、時間の流れを含むデータを処理するために開発されたニューラルネットワーク (人間の脳の働きをモデルにした機械学習の手法) の一種で、音声認識や機械翻訳などに欠かせない技術です。
従来のニューラルネットワークでは、古い情報を保持し続けることが難しく、時系列データの処理に弱点がありました。時系列データとは、時間の経過に沿って記録された連続的なデータで「センサーログ」「株価チャート」「ユーザーの行動履歴」などが代表例です。
LSTMはこの問題を解消し、「必要な情報だけを長く記憶する」という仕組みを備えている点が特徴です。
例えば、翻訳タスクにおいて前半の文脈を維持したまま後半の翻訳を行うことが可能となり、主語や一貫した語調など全体の整合性を保ちながら、違和感のない文章を生成します。また、需要予測や株価分析など、時間の推移が求められる分野でも活用が進んでいます。
LSTMが注目されているのは、時系列データへの高い適応力があるためです。
時系列データは、前後の流れや過去との関係を加味して解析する必要があります。LSTMは「情報の流れを保ちつつ長期的な依存関係を学習できる」ことから、ビジネスの現場で評価されています。
例えば、製造業の異常検知、金融の相場分析、通信の利用予測などで活用が進んでいます。従来の手法では見逃されていた「わずかな変化の兆し」をLSTMで捉えることにより、現場での複雑な判断や先を見越した行動を支援できる点も、注目される理由の一つです。
LSTMの中核となるのが「セル状態 (Cell State)」と、3つの「ゲート (忘却・入力・出力)」です。これらの要素が連携することで、重要な情報を長期的に記憶しながら、必要な情報のみを引き継げます。
要素 | 役割・特徴 | 数式 (概要) |
---|---|---|
セル状態 (Cell State) |
長期記憶を保持 | Ct=ft*ct-1+it*C̃t |
忘却ゲート (Forget Gate) |
過去のセル状態から不要なものを削除 | ft=σ(Wf・[ht-1,xt]+bf) |
入力ゲート (Input Gate) |
セル状態に新たな情報をどれだけ追加するかを決定 | it=σ(Wi・[ht-1,xt]+bi) C̃t=tanh(Wc・[ht-1,xt]+bc) |
出力ゲート (Output Gate) |
セル状態からどの情報を出力するかを決める | ot=σ(Wo・[ht-1,xt]+bo) ht=ot・tanh(Ct) |
隠れ状態 (Hidden State) |
どの情報を出力するかを決める | ht=ot・tanh(Ct) |
LSTMは「セル状態」と呼ばれる長期記憶の情報の流れを保持し、以下の3つのゲートによって制御しています。
忘却ゲートは、セル状態に蓄積された過去の情報のうち「どの情報を残し、どれを忘れるか」を判断する役割を持ちます。
入力データと直前の出力をもとに、シグモイド関数 (入力された実数値を0~1の範囲に変換する数学的な関数) で0~1の値を出し、それに応じて記憶を削除または維持します。これにより、LSTMは古くなった文脈や関係の薄い情報を効率的に削除し、セル状態を最適に保つことが可能です。
入力ゲートは、セル状態に「新たな情報をどれだけ記憶に追加するか」を制御します。
まず、現在の入力と直前の出力をもとに「記憶候補」 (新たに加えるべき内容) を作成し、シグモイド関数で得た重要度のスコア (0~1の値) を掛け合わせ、必要な情報だけをセル状態に追加します。この仕組みによって、重要な情報だけを新たに記憶し、過去と現在のバランスを保ちながらセル状態を更新できます。
出力ゲートは、更新されたセル状態の中から「どの情報を出力するか」を選びます。
セル状態のすべてをそのまま出力するのではなく、必要な情報に絞って取り出すため、次の層やタイムステップに効率よく情報を伝えることが可能です。出力されたデータ (隠れ状態) は、次の処理や予測に活用されます。
LSTMは、RNN (Recurrent Neural Network、回帰型ニューラルネットワーク) の弱点を克服したモデルであり、必要な情報なら維持できるという「長期的な依存関係を捉える力」に優れている点が大きな違いです。
RNNは、LSTMと同様に時系列処理の基礎となるモデルですが、後述する「勾配消失問題」により古い情報を保持し続けるのが苦手という課題を抱えています。一方で、LSTMはセル状態と3つのゲート構造により重要な情報を長期間保持でき、精度の高い予測や複雑な文脈の理解に対応可能です。
両者の主な違いは以下のとおりです。
項目 | RNN | LSTM |
---|---|---|
記憶の持続力 | 短い | 長い |
勾配消失の影響 | 受けやすい | ゲート構造により軽減 |
用途の広さ | 短文や単純な時系列に有効 | 複雑な文脈、長期依存、高精度な予測に有効 |
構造の複雑さ | 比較的シンプル | やや複雑 (計算コストも高い) |
LSTMは、学習時に古い情報が伝わらなくなる「勾配消失問題」を防ぐ構造を持っています。
勾配消失とは、ニューラルネットワークの学習時に誤差を伝える信号 (勾配) が小さくなりすぎて、前の層の重みがうまく更新されなくなることで、過去の情報を学習しにくくなる現象です。
LSTMはセル状態という情報の通り道を設け、勾配がほとんど劣化しない構造を持ち、過去の情報も長く保持可能です。また、3つのゲート構造により、必要な情報を残しつつ、誤差や記憶を適切にコントロールできます。
本章ではPythonの以下ライブラリを使ってLSTMを実装する手順を紹介します。
以下は、過去の数値から未来を予測する (時系列予測) をテーマにしたサンプルのため、ぜひ参考にしてください。
import numpy as np import tensorflow as tf from tensorflow.keras.models import Sequential # 順次モデル構築用 from tensorflow.keras.layers import LSTM, Dense # LSTM層と出力層
# 100個のサンプル、各サンプルは10ステップの時系列、1つの特徴量を持つ X = np.random.rand(100, 10, 1) # 入力データ: 形状 (サンプル数, 時系列の長さ, 特徴量数) y = np.random.rand(100, 1) # 教師データ (ターゲット): 1つの出力を予測
model = Sequential() # 順番に層を積み上げていくモデル # LSTMレイヤーを追加 (50ユニット=50個の記憶セル) # input_shape=(10, 1): 1サンプル当たり10ステップ、各ステップで1つの値 (特徴量) model.add(LSTM(50, input_shape=(10, 1))) # 出力層を追加 (Dense層=全結合) # 今回は1つの値を予測するため、出力ユニットは1つ model.add(Dense(1)) # モデルのコンパイル # 損失関数: mse (平均二乗誤差)、最適化手法: adam (よく使われる最適化アルゴリズム) model.compile(optimizer='adam', loss='mse')
# エポック数: 20回、バッチサイズ: 16 (1回の更新に使うサンプル数) model.fit(X, y, epochs=20, batch_size=16)
# ここでは訓練に使ったXをそのまま入力して予測結果を得る predictions = model.predict(X)
#最初の5件のみ表示する print(predictions[:5])
以下はPyTorchを用いて、時系列データを入力し、回帰予測 (連続値出力) を行った実装例です。
import torch import torch.nn as nn import torch.optim as optim import numpy as np
seq_length = 10 # 時系列の長さ input_size = 1 # 特徴量の数 hidden_size = 50 # LSTMの隠れ状態ユニット数 output_size = 1 # 出力の次元 (回帰出力) batch_size = 100 # バッチサイズ
X = np.random.rand(batch_size, seq_length, input_size).astype(np.float32) y = np.random.rand(batch_size, output_size).astype(np.float32) X_tensor = torch.from_numpy(X) y_tensor = torch.from_numpy(y)
class LSTMRegressor(nn.Module): def __init__(self, input_size, hidden_size, output_size): super(LSTMRegressor, self).__init__() self.lstm = nn.LSTM(input_size, hidden_size, batch_first=True) self.fc = nn.Linear(hidden_size, output_size) def forward(self, x): out, _ = self.lstm(x) # LSTMの出力 (すべての時刻) out = out[:, -1, :] # 最後の時刻の出力だけ使う out = self.fc(out) # 全結合層で回帰値を出力 return out # モデルのインスタンス作成 model = LSTMRegressor(input_size, hidden_size, output_size)
criterion = nn.MSELoss() optimizer = optim.Adam(model.parameters(), lr=0.001)
for epoch in range(20): model.train() optimizer.zero_grad() output = model(X_tensor) loss = criterion(output, y_tensor) loss.backward() optimizer.step() if (epoch + 1) % 5 == 0: print(f"Epoch [{epoch+1}/20], Loss: {loss.item():.4f}")
model.eval() predictions = model(X_tensor).detach().numpy() print(predictions[:5])
LSTMの主な応用分野は以下のとおりです。
分野 | 概要 |
---|---|
自然言語処理 | 文の意味を理解する、翻訳・文章生成、感情分析などに利用 |
手書き文字・画像認識 | 手書きの文字や画像の変化を読み取り、デジタルデータに変換 |
異常検知 | センサーやログなど異常な動きを検知 |
自動運転・交通制御 | 車両の動きや道路環境の変化を連続的に捉える |
株価や資産の予測 | 株価予測をはじめ、投資の配分を考える |
作物の収穫予測 | 作物の生育状況や気象変動をもとに、収穫時期や水やりのタイミングを予測 |
法律・契約分析 | 契約内容に対するリスクの可能性がある部分を検知 |
前述したようにLSTMは、多様な分野で実用化が進んでいます。具体的なLSTMの活用事例を3つ紹介します。
Googleは2016年、従来のルールベースや統計ベースの翻訳システムを廃止し、LSTMを活用した「Google Neural Machine Translation (GNMT)」を導入しました。
入力文を文全体の特徴として読み取り、その情報をもとに翻訳文を一語ずつ生成する「エンコーダ・デコーダ構造」により、文脈を加味した自然な翻訳を行えるようになりました。その結果、従来の方式よりも60%以上の精度向上が報告されています。
UberはLSTMを用いて、過去の配車需要、時間帯、天候、イベントなどのデータから将来の需要を予測しています。その予測に基づき、需要に応じてリアルタイムに価格を変動させるダイナミックプライシングを実現しています。
その結果、供給不足や過剰供給を回避でき、収益最大化と顧客満足度の向上を両立しています。
Volvoでは、自社の大型トラックの整備や保守作業をより効率的に行うため、LSTMを使った部品の故障兆候を事前に検知する予測モデルの開発に取り組んでいます。
トラックの走行履歴やセンサー情報などの時系列データをLSTMモデルに学習させることで、部品ごとの異常を高精度に予測可能となりました。その結果、計画的な整備によるダウンタイムの削減に寄与しています。
最近の研究では、LSTMと他の技術を組み合わせて、より高精度な予測ができるようになりつつあります。例えばLSTMを強化した「xLSTM」は、長い文章の意味をより正確に理解し、複数の処理を同時に実行できる点が特徴です。この改良によりチャットボットの自然な応答生成や、文章から感情を読み取る感情分析などの精度が大きく向上しています。
LSTMは20年以上前に登場した技術ですが、今後も新たなアルゴリズムやハードウェアの進化とともに、多様な課題解決に貢献していくことが期待されます。
LSTMは、RNNが抱えていた勾配消失問題を克服し、「過去の情報を長く保持しながら、不要な情報は忘れる」という仕組みを有しています。
現在は、自然言語処理や異常検知、予測分野でLSTMの活用が進んでいます。今後も最新技術との連携により、より多くの現場で「わかりやすい・柔軟・実用的なAIモデル」として活用が期待されている技術の一つです。
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