「KDDI AI駆動共創プログラム」は、これまでに数百件のDXプロジェクトを推進してきた「KDDI DIGITAL GATE」が、2025年に新たに立ち上げたプログラムだ。AIの力を活用し、テーマの掘り下げから課題発見、アイデア創出、プロトタイプ開発、検証までのプロセスを一層高度化・効率化することで、新規事業創出やDX推進に悩む企業に対し、新たな解決策を示すことを目指している。本記事では、開発を主導した2人に、立ち上げの背景や目指す姿について聞いた。
2025年10月、KDDIはAIを活用した新規事業創出プログラムを始動した。企業の新規事業創出やDX推進を支援してきた「KDDI DIGITAL GATE」が、従来の共創プロセスに独自開発のAIツールを組み込むことで、ビジネスの創出スピードと質の両面を高めることを目的としている。
開発の背景には、企業が抱える「共通の課題」を解決したいという思いがある。顧客ニーズの多様化や製品ライフサイクルの短期化が進むなかで、企業が持続的に成長し続けるためには、新たな収益源の創出と競争力の強化が不可欠だ。しかし、財務省の調査によると、新規事業開発に取り組む企業の約7割が「人手不足」や「専門的知見の不足」を主なボトルネックと感じており、十分な成果を得られていない実態があるのだ。(注1)
このような状況を打開するために、KDDIは最新のAI技術を新規事業創出プログラムに取り入れ、企業が短期間で複数の仮説を検証できる仕組みを構築した。従来は、「KDDI DIGITAL GATE」の専門家チームが企業の課題発見からアイデア創出、技術検証までを伴走して支援してきたが、「KDDI AI駆動共創プログラム」においては各ステップでAIが人の思考を拡張し、検討プロセスの高速化を支援する。時間や人的リソースを削減しながらも、多くのアイデア検証を実現できる仕組みにより、従来3~5日間かかっていたサービスデザイン工程を最短1日で完了できるという。限られたリソースの中でもAIを活用し、検討サイクルを素早く回すことで、高精度な事業構想をアジャイルに構築できることが期待されている。
本プロジェクトを推進する「KDDI DIGITAL GATE」は、2018年に設立された。元々は「5G/IoT時代のビジネス開発拠点」として虎ノ門に設立されたが、現在は社内外のDX推進や共創ビジネス創出を目的とし、KDDI高輪本社内のTSUNAGU BASEを拠点に活動している。
「KDDI DIGITAL GATE」の大きな特長は、クライアント企業と伴走しながら、課題の発見から開発・検証・実装までを一気通貫で支援する点だ。組織には、ビジネス開発、UXリサーチャー、ソフトウェアエンジニア、UI/UXデザイナーなど、多様な分野のプロフェッショナルが在籍し、プロジェクトごとに最適なメンバーを柔軟にアサインしている。機動性と自律性の高いチームを編成しながら、お客さま企業・パートナー企業とともに価値を共創できる点が強みだ。
センター長の芹澤は「KDDI DIGITAL GATE」について「企業のDXを推進するために、ビジョンの策定から、テーマ・課題探索、アイデア創出、UX設計、技術評価・検証、ユーザー評価まで幅広く手がけています。現在は、それらのサービスデザイン・プロダクト開発プロセスにAI技術を掛け合わせたものをコア・コンピタンスとしていますが、最近ではお客さまのプロジェクト支援にとどまらず、お客さまの課題やアイデアにKDDIのアセットを組み合わせて新たな共創ビジネスを創出する取り組みにも力を入れています」と説明した。
本プログラムの強みは、「KDDI DIGITAL GATE」が2018年の設立以来、数百件のDXプロジェクトを推進してきた実績と、現場で培ってきた知見にある。「KDDI DIGITAL GATE」がサービスデザインやプロダクト開発を自ら行いながら、その過程で得た課題感をもとに、必要なAIツールをすべて内製で開発した。
サービスデザイナーの松本は「私たちはAIソリューションの提供者でありながら、利用者でもあります。実際のワークにおいてAIツールを活用する中で、満足できない部分や新たにAIツールを活用したいポイントを発見し、改善・開発を重ねています。改善のサイクルを常に回しているため、AIツールは日々進化しています」と語る。
さらに、実践を通じて得た経験をもとに、AIツールを最大限に活用して価値を創出するノウハウも蓄積してきた。芹澤は「大企業になるほど、自社のアセットや課題をすべて把握できる人は限られてきます。部署ごとの課題は理解できても、全社的な構造を俯瞰するのは難しいものです。AIを活用すれば、人間の記憶や認識の範囲を超えた気づきを得ることができます。数多くの実績を通じて培った経験から、一連の検討プロセスにおいて、どこにどのようにAIを組み込めばプロジェクトの質を向上させられるのかを実践の中で見極め、着実にブラッシュアップしていきます」と強調した。
本プログラムは、専用AIツールの提供だけではなく、サービスデザインからプロダクト開発までの全工程を「KDDI DIGITAL GATE」の専門家が伴走支援することに価値がある。プロジェクトの進行状況に応じて、「主要機能に絞ったプロトタイプ開発を行い、社内で検証してはどうか」や「ユーザーインタビューを実施し、フィードバックを得てはどうか」など、次のフェーズへと進むための最適な提案を行う。各プロジェクトのゴールに合わせて、仮説検証から実装までのサイクルを柔軟に設計できるのも、「KDDI DIGITAL GATE」の豊富な実績に裏付けられた強みである。
本プログラムは、新規事業や業務改革の立ち上げを検討している企業にとって、大きなヒントとなるだろう。「課題はあるが、どこから着手すればよいかわからない」「仮説の検証に時間がかかる」といった悩みを持つ企業に対し、AIが思考の補助を行い、スピーディーな意思決定を支援する。
芹澤は「AIとのキャッチボールを通じて、個人の思考を深めたり広げたりすることができます。そのため、従来のワークショップが苦手な方や、新規事業のアイデア創出に苦手意識を持つ方にも好評です。例えば、AIが出した“叩き台”に対してコメントを重ねたり、改善したりすることで発想が広がると同時にアイデアの質も高まります。AIツールが最初の種を生み出してくれるからこそ、それを膨らませる人の力も活きてくるのです」と述べた。
松本は「お客さまからも“AIはここまで使えるのか”と驚かれることが多いです。ワークで生まれたアイデアは、お客さま自身の考えを反映しているため、“勝手に作られたものではない”という納得感もあるようです。実際に“このアイデアを早く次に進めたい”という声も多いです」と話した。
さらに、AIの活用により、仮説立案の時間短縮や検証フェーズに必要なリソースの確保が可能となり、その結果、意思決定のスピードと精度の向上だけでなく、人件費や開発費の削減も期待できる。特に検討時間の大幅な短縮により、これまで時間の確保が難しかった決裁権限者や経営層が議論に参加しやすい環境が整うことも大きなメリットだ。この副次的な効果として、経営層を巻き込んだ企業全体でのプロジェクト推進が可能となる。芹澤は「参加者層も幅広く、情報システムや商品企画・開発といった特定部門に限らず、製造や営業など現場寄りの部門から事業企画や経営企画などの経営に近い部門まで、さまざまな立場の方が参加できるので、まずは気軽に相談してほしい」と語った。
「KDDI AI駆動共創プログラム」が目指すのは、単なるAIツールの提供ではない。AIツールを組み込んだサービスデザインプロセスから導出されたアイデアとKDDIが持っている多種多様なアセットを掛け合わせながら、お客さま企業とともに新しい価値を生み出していくことである。最後に、開発を主導した2人に今後の展望とお客さま企業へのメッセージについて尋ねた。
芹澤は「5G通信やデータ活用、AI技術をはじめとしたKDDIのアセットとお客さまの事業を掛け合わせ、新たなビジネスをともに創り出していくことが理想です。今回の『KDDI AI駆動共創プログラム』は“AIと人との共創”に加えて、“お客さま企業とKDDIの共創”という意味も持っています。新規事業の進め方に迷っている方や、自信を持てない方もいらっしゃると思います。私たちはお客さまとワンチームになって、ともに考え、ともに悩み、挑戦していきたいと思っています。企業全体で“ジブンゴト化”して取り組む環境づくりを、ともに進めていきます」
一方、松本は「もちろんAIは、人の能力を補強する強力な手段ですが、最初からすべてを使いこなすのは難しいと思います。各フェーズに適したAIツールを見極め、上手に活用しながら人の創造性を最大限に引き出すことが重要になってきます。本プログラムは“AIを使ったワークショップはハードルが高そう”と感じている方にも気軽に体験いただけるよう、 『KDDI DIGITAL GATE』の専門家がリードしながら進行します。一日で完結するワークもありますので、ぜひ気軽に参加してほしいです」と語った。
「KDDI AI駆動共創プログラム」は、新規事業の創出に課題を抱える企業にとって、大きなヒントとなるだろう。「KDDI DIGITAL GATE」は、これからも企業の未来をともに描きながら、挑戦を続けていく。