カーボンニュートラルは、CO2など温室効果ガスの「排出量」と、森林管理などによる「吸収量」を差し引き、温室効果ガスを実質的にゼロにすること。日本政府は2050年までのカーボンニュートラルの実現を宣言している。
全世界でGX (グリーントランスフォーメーション) の動きが加速する中、KDDIは2023年10月31日から法人向けに、カーボンニュートラル実現をワンストップで支援するサービス「KDDI Green Digital Solution」の提供を開始した。
サービス開発に当たり、タッグを組んだのがCO2排出量の可視化・削減サービスなどを手掛けるアスエネ株式会社 (以下、アスエネ) だ。本記事では同社の代表取締役CEO 西和田 浩平 様と、KDDI株式会社 ソリューション推進本部 サービス企画部長 梶川 真宏とのインタビュー対談を通じて、カーボンニュートラルにおける企業の取組状況と今後の動向や、取組の最初のステップである可視化の重要性、両社がタッグを組んだ背景などを聞いた。
――アスエネはカーボンニュートラルなどの社会課題に対して、どのような事業を展開されているのでしょうか。
西和田 浩平 様
西和田様 アスエネは、気候変動に伴って生じている社会課題をテクノロジーで解決する「クライメートテック」の企業として、2019年に設立しました。事業の中心は、法人向けのCO2排出量見える化・削減・報告クラウドサービス「アスエネ」です。その他、持続的なサプライチェーン調達を実現するためのクラウド評価サービス「アスエネESG」や、カーボンクレジット・排出権取引所の「Carbon EX」も手掛けています。
これらのサービスを通じて、大気中に放出するCO2量と除去される量が同じ状態である「ネットゼロ」や、「次世代によりよい世界を」という企業ミッションを実現するために、日々活動しています。そのために、国内だけでなく海外の拠点作りも拡大しているところです。
――カーボンニュートラルについて、日本企業の現状や課題についてどのように思われますか。
西和田様 さまざまな取組が先行する欧州と比較して、日本は「遅れている」と見られがちですが、実はアジア・オセアニア地域では、シンガポールやオーストラリアとともに日本は比較的リードしている国です。
とりわけ上場企業では、その取組が進んでいます。2021年に金融庁と東京証券取引所によるコーポレートガバナンス・コードが改訂され、サステナビリティに関する情報開示が求められるようになりました。また株主をはじめとするステークホルダーからの要望もあり、排出量の見える化に取り組む企業は増えています。上場企業でも温度差はありますが、経営層の意識や危機感が強い企業は、かなり取組が進んでいると思います。
梶川 上場企業が動き始めた影響で、中小企業にも変化が起こり始めています。取引先へもグリーン化を求めることが増えたことが背景にあると考えています。
一方で、自社内での取組に終始している企業もまだ多いようです。企業活動で排出されるCO2にはScope1~3まで3つの区分があります。中でもサプライチェーンなど自社活動に関わる他社が排出するCO2であるScope3まで踏み込むケースは少なく感じます。
梶川 真宏
西和田様 まず、欧米と比較して政府などの規制の強さに違いがあると感じています。炭素税もそうですし、カーボンクレジットの売買も道半ばです。規制ができて、CO2の排出がビジネス上のコストとして企業が認識するようになれば、取り組むインセンティブにもなるはずです。
梶川 自社のCO2排出量を認識できていない企業も多いです。会計などと違って、算出方法が広く知られていないことも影響しているのではないでしょうか。
西和田様 今後は自社だけでなくサプライチェーンも含めて排出量を可視化した上でCO2排出量を削減する動きが求められます。国際サステナビリティ基準審議会 (ISSB) は今後、Scope3に関しても開示を義務化する方針を示していますので、日本企業も間違いなく対応する必要が出てくるはずです。
梶川 CO2排出量の削減は遅れているというよりは、まさにこれから本格的に始まっていく取組だと考えています。
その中で「アスエネ」のようなサービスと連携していくことで、お客さまに寄り添って支援ができると考えております。
――「サプライチェーンまで含めてCO2の削減が求められるようになる」とのことですが、企業はまず何から着手すべきなのでしょうか。
西和田様 先ほど梶川さんがお話しされた通り、まずは可視化です。ただ、可視化が目的にならないように注意も必要です。あくまで目的は、その先にある削減やカーボンニュートラルの実現です。そのためには、可視化の先までを見込んでトータルに取り組む必要があります。
梶川 可視化により現状を把握した上でカーボンニュートラルに向けた戦略の策定を行い、実行していくことが重要です。
――まずは可視化とのことですが、そのような取組を始める企業さまに対して「アスエネ」ではどのようなことをご提供できるのでしょうか。
西和田様 「アスエネ」の特長は、クラウドで企業活動全体のCO2排出量を可視化できることです。Scope1~3までのさまざまな計算方法に対応しています。
また、商品やサービスのライフサイクル全体で排出するCO2を算定する仕組みである「カーボンフットプリント (CFP) 」にも対応しています。一般にScope3は原材料のコストなどからラフに計算することが多いのですが、さまざまなデータを基に精緻に可視化できる点は、競合サービスと比較した優位点になります。
西和田様 代表的な事例として、大手建設会社さまのケースがあります。こちらのお客さまは、従来Scope1~3の計算に大きな手間がかかっていました。膨大な数の現場で排出量を計算し、収集・統合する中で、時間もかかりますし人為的なミスも発生していたと伺っています。「アスエネ」を導入して、各現場が直接クラウド上にデータを入力する形になり、集計が非常に楽になったそうです。導入2年目となった今年は、国内だけでなく海外での活用も進められています。
――KDDIは9月、「アスエネ」の提供を含めてCO2排出量の可視化から削減計画の立案・実行までをワンストップで支援するサービス「KDDI Green Digital Solution」を発表しました。今回、両社でタッグを組んだポイントをお聞かせください。
梶川 KDDIグループには通信キャリアだけでなく、再生可能エネルギーを扱うグループ会社のケイパビリティを有しています。一方で、包括的なサービスを提供する中で不足している部分もあり、補完していただけるパートナーを探していました。そこで、アスエネはCO2排出量を可視化するサービスの市場で、非常に高いシェアを持たれていることもあり、提携に至りました。今回の提携により広い範囲でソリューションを提供できる体制となり、お客さまへの価値も高められると考えています。
グローバル展開に注力されている点もポイントです。当社も海外に現地法人を多く持っており、これから取組を進めていくに当たり、高いシナジーがあると考えました。
西和田様 当社としては、KDDIのような国内トップクラスの企業と一緒に、グローバル市場に進出できることは非常に意味があると考えています。これまで当社は直販体制を強みに売り上げを伸ばしてきました。ですが、今後さらなる成長を見込む上では、海外へと打って出る必要がありました。そこで、国内と海外を含めて「面」で市場を獲得していく強いパートナーが必要になると思い、KDDIとパートナーになりました。
梶川 すでに両社のシンガポール法人で提携も結んでおり、グローバルでのシナジーは早速生まれています。今後はシンガポールに留まらず、欧州や米国でも広げていければと考えています。
――今後、両社として目指すゴールや展望についてお聞かせください。
西和田様 先ほどはグローバルの話もしましたが、まず日本を1丁目1番地として取り組みます。ChatGPTなどのホットトピックスも機能に取り込みながら、「アスエネ」のサービス強化に取り組んでいきたいと思います。
また、最近は「アスエネESG」への注目度も高まっていると感じています。10月に開設した「Carbon EX」も、これからカーボンクレジット市場が伸びる中でチャンスが大きい領域です。KDDIとのパートナーシップを武器に、脱炭素領域で群戦略を仕掛けていければと考えています。
梶川 「KDDI Green Digital Solution」サービスは、可視化から削減の実行までをお客さまの状況に合わせた形でワンストップな提供ができることが大きな価値です。これまでKDDIで提供してきた既存サービスに織り込むことで、既存で利用されているお客さまも新規のお客さまもCO2の削減に繋げられる、といったトータル支援が可能になります。
また今後はお客さまへのDXの提案時に「KDDI Green Digital Solution」を加えることも考えています。例えば、工場のデジタル化を支援していたところにCO2の可視化も付加できれば、電力消費量と稼働状況をリンクさせながらより最適なご提案ができるようになります。これからもパートナー企業さまと協力してサービスの範囲を広げながら、よりお客さまの事業成長や社会貢献に貢献していきたいと考えております。